カテゴリー「書評」の記事

書評 林英一著『残留兵士の群像』@下野新聞 23年3月4日付 (共同通信配信)

『残留兵士の群像』の書評が「下野新聞」2023年3月4日付に掲載されました(共同通信配信)。評者は野上 元先生。
ご書評くださいました先生、掲載紙ご担当者さまにこころよりお礼申し上げます。




戦後社会の価値観相対化

・・・・・・

1972年の横井庄一、74年の小野田寛郎の帰国が有名である。かれらは、戦後が達成したものを見せつける相手として、あるいは戦後が失ったものをよみがえらせてくる相手だったのである。

しかし本書は、この2人に限らず、そして実像と表象の両方にまたがる丹念な調査により、すでに50年代、あるいは遅くとも60年代には彼ら「残留兵士」の表象化・偶像化は始まっていたとする。
・・・・・・

本書が、戦後の支配的な価値観を相対化するアジア社会や家族からの視点を詳細に追おうとしているのも特徴的だ。

 帰国・一時帰国した彼らを追うドキュメンタリー映像に記録された、親類の対立など、なんとも気まずい瞬間も本書は見逃さない。「戦後」は、それら全てを貪欲にかき集めようとしてきたのだった。
 
 




9784788517936 林 英一 著
残留兵士の群像
彼らの生きた戦後と祖国のまなざし
残留兵士の群像
出版年月日 2023/01/05
ISBN 9784788517936
4-6判352頁・定価3740円


 

書評 烏谷昌幸 著『シンボル化の政治学』@毎日新聞 2023年2月18日付

烏谷昌幸 著『シンボル化の政治学  政治コミュニケーション研究の構成主義的展開』
の書評が、毎日新聞 2023年2月18日付に掲載されました。評者は内田麻理香氏。ご書評くださいました先生、掲載紙ご担当者様、ありがとうございました。こころよりお礼申し上げます。

 

・・・・・・私たちはシンボルを活用し、ときに振り回されながら生きているのだが、このシンボル概念を政治学に用い、新たな理論的枠組みを提示するのが本書となる。

 著者がこの理論を探究するきっかけは、2011年の福島第一原子力発電所事故だったという。広島、長崎の原子爆弾の被害を経験したはずの日本が、第二次世界大戦の敗戦から10年程度という短い時を経て、原子力政策に熱心な国となった。著者は、敗戦後の日本人にとって、原子力が広島、長崎の「恐怖のシンボル」から、豊かな未来をもたらす「希望のシンボル」へと転換したからではないかと指摘する。このようなシンボル化のプロセスを明らかにするのが「シンボル化の政治学」である。

・・・・・・政治という営みはシンボルを必要とする。小さな組織の内部では、特権を餌に忠誠心を植え付けることもできるが、集団を方向付ける場合は、集団の中に共通の認識や感情を生み出す必要が生じるため、シンボルが不可欠となるのだ。統治のためのシンボルとしては、記念日、音楽、旗、彫像、物語、儀式などがある。しかし、政治のシンボルは、決して政治権力者が一歩的に大衆を操作する道具ではなく、人々がメディア空間で可視化される表象や言説を利用しながら構築されたものなのだ。・・・・・・

>>>>>>毎日新聞 今週の本棚

 

 

9784788517844 烏谷昌幸 著『シンボル化の政治学』

出版年月日 2022/10/04

ISBN 9784788517844
A5判・336頁
定価 3,520円(税込)

 

書評 井上雅雄 著『戦後日本映画史』@読売新聞 2023年1月8日

井上雅雄 著戦後日本映画史の書評が、読売新聞 2023年1月8日付に掲載されました。評者は金子拓氏。ご書評くださいました先生、掲載紙ご担当者様、ありがとうございました。こころよりお礼申し上げます。

 

・・・・・・本書の論点は大きく二つある。ひとつめは、国家(政府)との関わり。・・・・・・いまひとつは、製作・配給・興行の三業態に分かれ、それぞれの思惑で利益を追求する映画産業の構造への注目である。売り手市場である映画産業で割を食うのは興行(映画館経営者)側であり、常に赤字経営の危機に瀕していた。

 安定した収益を望む興行側に対し、東映が二本立て製作・配給を開始し、直営館の確保に力を入れたことなどから映画館が急増する。東映は製作数の増加にともない業務の合理化を図って収益トップの座に躍り出、映画館の増加は映画人口の裾野拡張に大きく寄与して50年代後半の黄金期を現出した。しかし著者は、このことこそが逆に映画産業の危機を招いたと指摘する。粗製濫造による作品の消耗品化である。・・・・・・

書評全文はこちら >>>>>>よみうり堂



9784788517813 戦後日本映画史 企業経営史からたどる
井上 雅雄 著
2022/09/30
ISBN 9784788517813
A5判512ページ 定価 5,720円(本体5,200円+税)
在庫 在庫あり

書評『東京ヴァナキュラー』@歴史学研究2022年11月号

ジョルダン・サンド(著), 池田 真歩(訳)

『東京ヴァナキュラー』 の書評が「歴史学研究」2022年11月号に掲載されました。評者は五十嵐太郎氏。ご書評くださいました先生、掲載ご担当者様に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

 


・・・・・・なるほど、日本は、こうした記憶を残すことが苦手なのかもしれない。さらに言うと、西洋の都市空間と違い、特にモニュメントをうまく使いこなせないようだ。本書のサブタイトルは、「モニュメントなき都市の歴史と記憶」である。それゆえ、戦後の東京における「ありふれた物」や日常の生活に対するまなざしの系譜を掘り起こす。著者のジョルダン・サンドは、東京大学に留学した建築史の研究者であり、『帝国日本の生活空間』(岩波書店、2015年)でも、大きな歴史としての政治ではなく、椅子、衣服、草履、味の素など、日常のささやかなモノに注目しながら、近代日本において複雑に展開された国際的な文化の伝搬、すなわち海外のネットワークを描いている。本書も、モニュメントではなく、日常に密着したモノから東京の文化遺産や地域性の発見を考察したものだ。そうした意味において切り口は似ていよう。ただし、本書は20世紀後半の東京を対象としていることから、アヴァンギャルドなデザインが次々に登場した輝かしい日本の現代建築史に対し、別の視点を与えるものとして読むこともできる。・・・・・・

 

9784788517387
東京ヴァナキュラー
モニュメントなき都市の歴史と記憶
J.サンド 著 池田 真歩 訳
2021/09/24
ISBN 9784788517387
四六判304頁・定価3,960円
在庫あり

書評 私市保彦著『賢治童話の魔術的地図』@週刊読書人 2022年11月18日付

 

私市保彦著『賢治童話の魔術的地図』の書評が、週刊読書人 2022年11月18日付に掲載されました。評者は千葉一幹氏。ご書評くださいました先生、ご掲載紙ご担当者さまに深くお礼申し上げます。ありがとうございました。


優れた研究書は、推理小説に似ている。名探偵が迂闊な刑事が見落とす些細な異常に目をつけそこから事件の真相に迫り真犯人を導出するように、研究者は、通常なら読み飛ばされてしまうような、テキストにある微細な特徴に気づき、作品に秘められた特質を剔抉し、ついにはその作品の新たな姿を提示するに至る。賢治作品に関する九つの研究を集めた『賢治童話の魔術的地図』において、私市保彦は、名探偵さながらに、賢治作品の新たな相貌を読者に開示している。


・・・・・・かつて菅谷規矩男は、社会思想的にも文学的にも「孤立」した存在であった宮沢賢治を論じるにあたり、その総体を視野に入れる必要性を説き、そうした視点を欠いた研究は、「雑多なディレタンティズムの集積にとどまる」と指摘した(『宮沢賢治序説』)。この言明は四〇年以上前に出されたものであるが、賢治が生きた時代の出版物や歴史的事実を渉猟し、それらと賢治作品との関連性を指摘するのみの研究が溢れる昨今の状況下において、菅谷の指摘の重要性は失われていない。こうした賢治研究の状況を考慮すると、賢治文学を普遍的視点から論じようとする私市の試みの意味は、とりわえ大きいと言えよう。

 

9784788517622 賢治童話の魔術的地図
土俗と想像力

私市 保彦 著
2022/07/15
ISBN 9784788517622
4-6判256頁・定価3190円

在庫 在庫あり

書評 ロイック・ヴァカン 著 田中研之輔・倉島哲・石岡丈昇 訳『ボディ&ソウル』日本経済新聞・2022年10月15日付

ロイック・ヴァカン 著 田中研之輔・倉島哲・石岡丈昇 訳『ボディ&ソウル』(品切れ・絶版)の書評が2022年10月15日付日本経済新聞「半歩遅れの読書術」にて掲載されました。評者は小熊英二氏。

ご書評くださいました先生、掲載紙ご担当者さまに深くお礼申し上げます。ありがとうございました。

 

社会学者は「社会」を研究する。そして最小の社会は、個人の身体である。

個人とは、実は社会関係の総体である。例えば鉛筆や箸の持ち方には「育ち」、つまり幼少時からの社会関係の総体が現れる。「プロは話し方が違う」という形容が示すのは、個人の身体は長い訓練と社会関係が「身体化」した結果だということだ。

こういう「身体化」はどうしたら研究できるか。プロに「どんな修行をしましたか」と聞いても、あまり精緻な回答は得られないことが多い。それなら学者が自分で修行を経験し、分析した方がよい研究ができるかもしれない。ロイック・ヴァカン『ボディ&ソウル』(田中研之輔ほか訳、新曜社)は、そうした試みの一つだ。・・・・・・

>>>>>>日本経済新聞サイト 全文を読む(会員のみ)

 

 

9784788513198 ボディ&ソウル

四六判上製416頁・定価4730円
発売日 13.2.1
ISBN 978-4-7885-1319-8

品切・重版予定なし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書評 大野光明・小杉亮子・松井隆志 編『越境と連帯』@「図書新聞」2022年10月22日付

大野光明・小杉亮子・松井隆志 編『越境と連帯』(社会運動史研究 4)の書評が、「図書新聞」2022年10月22日付に掲載されました。評者は久保 隆氏。ご書評くださいました先生、書評紙ご担当者様に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。



三年前の一九年二月に創刊以来、毎年刊行され、四号に達した。社会運動を研究対象として継続していくことは、現在の様々な様態を考えてみれば、順調に進行していくことは至難なことだといっていい。だが、編者三人は、変わらず、意識的な考究の持続を示している。
・・・・・・
「支配のシステムは境界線をつくり出しながら、暴力と抑圧を維持している。これらと闘い、システム自体を変えていくために、人びとは境界線を揺さぶり、越えていくことが必要になる」として「境界と連帯」に込めた強い思いを伝えていく。・・・・・・


9784788517776 大野光明・小杉亮子・松井隆志 編
『越境と連帯』(社会運動史研究 4)

出版年月日 2022/07/10
ISBN 9784788517776
A5判・200頁 
定価 2,530円(本体2,300円+税)








 

書評 山本めゆ著『「名誉白人」の百年』@図書新聞 2022年10月22日付

書評 山本めゆ著『「名誉白人」の百年』の書評が、「図書新聞」 2022年10月22日付に掲載されました。評者は佐藤千鶴子氏。ご書評くださいました先生、掲載誌ご担当者様に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。



・・・・・・日本人は、インド系や中華系のように労働者として導入されることはなく、南アフリカに定住者のコミュニティを形成することはなかった。一定規模の日本人コミュニティが南アフリカに出現するのは一九六〇年代に入ってからであり、その主たる構成員は日系企業の駐在員とその家族であった。しかも彼らは数年しか滞在しない一時滞在者であり、アジア系移民といっても、南アフリカ政府や社会との関わりにおいて、インド系や中華系とは異なる存在であった。

 そんな日本人の企業駐在員や帯同家族が、アパルトヘイト期の南アフリカでの生活をどのように感じていたのかについて、当事者へのインタビューや日本人会のニューズレターなどをもとに再構成した第四章は本書のなかでもっとも読み応えのある内容となっている。
 
  一九八〇年代に「名誉白人」の当事者として批判を受けた人びとへのインタビューには困難や制約が伴ったようであるが、著者はエクスパトリエイト・コミュニティ研究で使われる「泡(バブル)」の比喩を用いて、日本人コミュニティの現地社会との関わりの薄さや現地社会への関心のなさを冷静に分析している・・・・・・





9784788517653
「名誉白人」の百年
南アフリカのアジア系住民をめぐるエスノ-人種ポリティクス

山本 めゆ 著
2022/03/30
ISBN 9784788517653
4-6判・256頁
定価2,970円 在庫あり

書評 I.ジャニス 著 細江達郎 訳『集団浅慮』@公明新聞 2022年10月10日




I.ジャニス 著 細江達郎 訳『集団浅慮』の書評が、「公明新聞」2022年10月10日付に掲載されました。
評者は池田謙一先生。ご書評くださいました先生、掲載紙ご担当者さまにこころよりお礼申し上げます。ありがとうございました。

 

ロシアがウクライナに侵攻してから7カ月。わずか数日で目的を達する意図であったとされるが、それは幻に過ぎず、世界的に多大な負の衝撃は続いたままである。

こうしたプーチンの意思決定の「失敗」はしかし、強権国家ならではの特質ではない。民主国家でも重大な誤りは起こりうる。原著出版40年後の『集団浅慮』邦訳の意義の一つはここにある。

どんな「ベスト・エンド・ブライテスト」と呼ばれる知的で思慮に富んだエリート集団を擁した民主的政府でも、ときに決断の大失敗を免れないのはなぜか。集団の心理学の広範な知見を踏まえ、膨大な歴史資料を一次資料にまで遡って精査して解き明かしたのが本書である。

・・・・・・

著書のジャニスは危機下の意思決定を熟知した著作(邦訳『リーダーが決断する時』首藤信彦訳、日本実業出版社)でも知られており、本書も長きにわたって政治学、社会心理学、経営学、組織論などの研究分野で重く受け止められてきた。スペースシャトル・チャレンジャー号打ち上げ失敗やトヨタ車暴走のリコール問題の解明にまで応用され、今後も広い範囲で有益である。多大な歴史的事件を扱う翻訳の苦労はいかばかりかと想像されるが、この良訳を歓迎したい。・・・・・・



9784788517707 『集団浅慮』


アーヴィング・L・ジャニス 著
細江 達郎 訳
2022/05/20
ISBN 9784788517707
四六判600頁・定価 4,730円
在庫 在庫あり

 

 

 

 

 

書評 デヴィッド・パレ 著『協働するカウンセリングと心理療法』@心と社会 No.189 2022

デヴィッド・パレ 著『協働するカウンセリングと心理療法』の書評が「心と社会」 No.189 2022に掲載されました。評者は関 百合先生。ご書評くださいました先生、掲載誌ご担当者様に深くお礼申し上げます。ありがとうございました。

・・・・・・
デヴィッド・パレによるこの600頁にわたる大作は、カウンセラー/セラピストがいかにしてクライエントと協働関係を築くかという臨床の知にあふれたテキストである。そこに難しい理論も用語もなく、アインシュタインやギアツなど心理学以外にも幅広い引用を用いて解説し、実践例も豊富に挙げている。この著書は、特にカウンセリングを始めたばかりの初学者にとっては大きな助けになるだろう。初めてのカウンセリングで何をどう聞いたらよいかわけもわからない時、膠着状態に陥った時、クライエントをアセスメントしては見たが役立つようには思えない時、この本は初学者の立場に立って、そして多くの例を引きながら寄り添ってくれる。本来はトレーニング中の大学院生に向けて作成されたのであろう工夫が随所に見られるが、経験を積んだカウンセラー/セラピストも日頃の自らの臨床を顧みる機会として一読をお勧めする。

この著書が画期的であると感じるのは、カウンセリングが実は「文化間の交流」の場であることを明言し、人類学者のフィールドワークを思わせる細心さと共感に満ちた好奇心によってクライエントと協働関係を築くことが重要であることを強調する点である。・・・・・・

 


協働するカウンセリングと心理療法

文化とナラティヴをめぐる臨床実践テキスト

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