書評 渡辺祐介 著『若者と軍隊生活』、図書新聞2023年11月11日付
元学徒兵の語りを「脱神話化」する
渡辺祐介 著『若者と軍隊生活 生還学徒兵のライフストーリー研究』の書評が図書新聞2023年11月11日付に掲載されました。 評者は松岡昌和氏。ご書評いただきましたこと心よりお礼申し上げます。
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著者は、それぞれの元学徒兵へのインタビュー内容をまとめた後、続く章でそれぞれのライフストーリーを分析し、さらに終章で三人の経験に共通したパターンを浮かび上がらせている。それは軍務に精勤するメカニズムである。三人とも、生還への思いをもって軍務に就き、「よりましな居場所」を求めて軍という組織のなかでの社会的上昇を図っていった。さらに、軍隊生活で他者の役割に応えようとすることで責任感を発揮し、軍隊生活を習慣化させていった。こうした学徒兵の行動を、著者は「学徒兵の若者らしい生き方」ととらえている。それは、平時においても社会を支える「下からの力」となるものであり、それが結果として戦争を支えていたのである。……
本書は、「平和教育」に「利用」される形で「神話化」された元学徒兵の語りを、綿密なインタビューと丁寧な分析によって「脱神話化」することに成功している。学校教育やメディアを通じた語りでのみ戦争を知ることになる著者や評者、そして多くの読者の世代にとって、この二一世紀の時代にどのような戦争像を描いていくかについてさまざまな模索が行われる。そのひとつの方向性が、本書が示したような、平時の生活者としての倫理や規範と戦争動員のメカニズムとの連続性を指摘していくことなのであろう。
渡辺 祐介 著
出版年月日 2023/06/05
ISBN 9784788518162
判型・ページ数 4-6・384ページ
定価 4,070円(本体3,700円+税)
在庫 在庫あり
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