書評 菅沼 明正 著『流転する伝統』@朝日新聞 2026年5月2日付
菅沼 明正 著『流転する伝統』の書評が、2026年5月2日付朝日新聞に掲載されました。評者は吉田裕氏。評者の先生に、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
文化財行政は、2018年の文化財保護法の改正によって、大きな転換期を迎えている。「文化財の保護」から「文化財で稼ぐ」政策への転換である。背景にあるのは、政府の「観光立国」路線だ。しかし、専門家から強い危惧の念が表明されているにもかかわらず、国民の関心はそれほど高くはない。文化財に対する理解を今後一層深めていく必要があるだろう。
本書は、京都・奈良への修学旅行を主な事例として、「日本の文化的なナショナル・アイデンティティ」がどのようにして形成され、どのように受容され続けていったのかを解明した研究である。分析の対象は、政策や法律、旅行、出版メディア(旅行案内書・ガイドブック・旅行雑誌など)の三領域であり、領域間の相互作用に注目しながら、文化財の鑑賞という形をとった観光旅行が定着していくプロセスを緻密(ちみつ)に検証している。........
学問上の貢献という点でいえば、本書の最大の成果は、エリック・ホブズボウムの「創られた伝統」概念を発展させたことだ。近代国民国家の文化的・思想的基盤の一つは、その国の「伝統文化」である。近年の研究は、その起源をたどることによって、「伝統文化」が近代化のある段階で形成された「創られた伝統」であることを明らかにしてきた。それに対して本書は、「伝統文化」の起源ではなく、それが社会の変化に対応しつつ受容されていくプロセスそのものに分析の焦点を合わせた。まさに「流転する伝統」である。
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菅沼 明正 著
社会学
出版年月日 2026/04/01
ISBN 9784788519213
A5判・360頁
定価4950円
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