書評 内藤千珠子『「アイドルの国」の性暴力 増補版』@図書新聞 2024年11月23日号
図書新聞2024年11月23日号、岡和田晃氏連載「〈世界内戦〉下の文芸時評」 第117回にて
内藤千珠子著『「アイドルの国」の性暴力 増補版』をお取りあげいただきました。岡和田先生、書評紙ご担当者様、ありがとうございました。
……ジェンダーやエスニシティをめぐる多様性を「額面化」した価値観として掲げながら、他方で歴史認識に関する議論に関心を示さない「企業文化」が浸透しているのならば、極右による歪曲を跳ね返せるよう、歴史認識をも我がこととして掘り下げてゆく必要があるのではないか。この点で重要なのは、表象分析と実証史学の交点を掘り下げる、内藤千珠子『「アイドルの国」の性暴力 増補版』(新曜社)だろう。本連載の第79回で取り上げた親本を再刊するにあたり、補章「ジャニーズ文化と見えない性暴力――帝国のファンタジーを読み解く」が加筆された。ジャニーズのファンである「少女たち」は、「ジェンダーやセクシュアリティの規範を越境する、クィアな少年たちの身体を性的に消費する」とき、「差別的な社会の息苦しい秩序を踏み破る開放感を得ることができ」た。そこから内藤は、こうした開放感を可能にするファンタジーが、比喩の域を超えた「帝国的性暴力」の構造を有していたからこそ、ジャニー喜多川による性暴力が見て見ぬふりをされてきたと述べるのである。論述の過程で目を惹かれるのは、ジャニーズ事務所の性暴力を告発してきた鹿砦社刊行本等のスキャンダラス・ジャーナリズムが、不正を糺すという建前を取りながらも、「ホモフォビアとミソジニーの結託した情動的な傾き」を隠そうともせずに「性暴力を告発するという姿勢を取りながら、言説上には被害者に対するセカンドレイプの暴力」と化していることを、的確に指摘している点だ。......
内藤 千珠子 著
2024/08/28
ISBN 9784788518551
4-6判・320ページ
定価 3,410円(本体3,100円+税)
在庫 在庫あり
最近のコメント