書評 好井裕明著『原爆映画の社会学』の書評@図書新聞2024年11月2日付
好井裕明著『原爆映画の社会学』の書評が、図書新聞2024年11月2日付に掲載されました。評者は片岡佑介先生です。評者の先生、掲載紙ご担当者さま、ありがとうございました。こころよりお礼申し上げます。
……本書の関心は、映画や博物館の展示、または体験語りにおける「語り口」や「方法」の批判的読解にあり、とりわけその定型化・形骸化を問題視している。被爆者の語りが私たちの胸を打つのは、大文字の思想が伝わるからではなく、原爆投下の前後も続いてきた徹底的に個でしかあり得ない生そのものの重みに圧倒されるからだろう。だからこそ、毎年八月六日・九日を頂点に反復されるマスメディアによるマンネリ化した報道を、著者は批判する。なぜなら、そこでは時に矛盾やどす黒い情動をも孕んだ個々の被爆者の語りが、往々にして原爆被害の悲惨さや反戦平和などの分かりやすく啓蒙的なメッセージに昇華されてしまうからだ。本書が、読者に効率よくシーンを説明する記述を大きく逸脱し、口調や言い淀み、仕草や表情まで「書き起こし」ているのは、既存の分析枠組みからは零れ落ちる細部にこそ、被爆体験の固有性を聴き取る手がかりが隠されていると考えるからだろう。
この点で本書の白眉と言えるのは、TVドキュメンタリーを取り上げ、出演者の語りとそれを体良くまとめようとする番組の方向性を比較検討した本書の後半部である。DVDや配信で容易に視聴可能な商業映画に比べて、TVドキュメンタリーは論じられることが少ないことに加え、特に九・十章は、本書全体の骨子を理解する上でも重要であるため、場合によってはここから読み進めるのも良いかもしれない……
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