書評 大内雅登・山本登志哉・渡辺忠温 編著『自閉症を語りなおす』 「図書新聞」2023年10月21日付
大内雅登・山本登志哉・渡辺忠温 編著『自閉症を語りなおす』の書評が、「図書新聞」2023年10月21日付に掲載されました。評者は髙木美歩氏。ご書評いただきありがとうございます。掲載紙ご担当者様にもお礼申し上げます。
本書は(一財)発達支援研究所の研究者と自閉スペクトラム症(以下ASD)と診断された支援者らによって編纂された、対話に基づくASD支援を提唱するものである。……
ASD者は社会性の障害のために人の気持ちを理解することができないという知識に対し、大内らは定型発達者もまたASD者を理解できていないのだから、わからないのはお互い様と主張する。定型発達者とASD者のすれ違いは、それぞれが体験している世界や素朴な感覚をよく知らないために生じる「ズレ」に起因しているのである。そして、互いのズレを明らかにして調整する方法として大内らが提唱するのが「逆SST」である。ソーシャルスキルトレーニング(SST)は社会で暮らすために必要な対人・生活スキルを身に着けるためのプログラムだが、逆SSTはASD者が出題者として日頃理解されにくい自身の体験を語り、参加者はその人が「なぜそうしたのか」を本人に質問しつつ推理していく、対話的調整である。そこで明かされる理由は思いもよらない、専門用語の枠にはとても収まらないものが多い。……
……
コミュニケーションがうまくいかないとき、まず相手に尋ねてみよう、対話しようという本書の主張はじつに真っ当である。この本はASDを主題に書かれているが、多様性が求められる今日の社会においては誰もが身につけておきたい視点である。簡単なように思われるそれをいかに実践するか、それがいかにむずかしいかを丁寧に記述した本書は、誰かとのより良いコミュニケーションを希求する人の一助になり得るだろう。
大内雅登・山本登志哉・渡辺忠温 編著
『自閉症を語りなおす』
当事者・支援者・研究者の対話
ジャンル 心理・福祉・看護・医療
出版年月日 2023/05/20
ISBN 9784788518155
4-6判・320ページ
定価 2860円(税込)
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