書評 林 英一著『残留兵士の群像』@「図書新聞」2023年4月15日付
林 英一著『残留兵士の群像』の書評が「図書新聞」2023年4月15日付にて掲載されました。評者は伊藤雅俊先生。
書評くださいました先生、掲載紙ご担当者さまにこころよりお礼申し上げます。ありがとうございました。
・・・・・・本書では「戦争の記憶」研究でこれまでなおざりにされてきた映像作品を用い、考察の期間を1950年代から2020年代までとし、かつインドネシア、グアム島、山西省、台湾、ベトナム、ラオスなど幅広い国と地域を射程に入れる。そうなると当然のことながら研究対象者の人数も多くなる。上記は、本書の最大の特徴であり、残留兵士という存在の一般化に寄与し、本書で導き出される結論や知識の独自性を保証する。また、新たな研究の試みとその成果からは「戦争の記憶」研究、ひいては残留(抑留)をめぐる研究への貢献という意義が見出せる。
とくにインドネシアの残留兵士研究で有名な著者は、その該博な知識と豊富な一次資料及び二次資料を駆使して残留兵士の「実像」と「表象」を詳らかにする。「第1章 残留兵士の組織化と英雄化――インドネシア」においてだけでなく、他章においてもインドネシアの残留兵士に関する記述や比較検討が見られる。とりわけ、著者のこれまでの研究成果、並びに実際に見聞きした事柄、聞き取りから得られた情報や知見は圧巻であり、それらを文献史料と映像作品と関連付けることで論拠や客観性を担保する。同時に、当該地域の残留兵士に関する知識及び情報の豊富さゆえに、他地域の論証に物足りなさを感じてしまう評者がいるのかもしれない。・・・・・・
・・・・・・本書は、東南アジア・東アジア地域の残留兵士各々の歴史・社会・政治など諸々の背景の文脈理解を踏まえ、残留兵士の「実像」と「表象」を徹底的に検証した信頼に足る学術書である。
林 英一 著
残留兵士の群像
彼らの生きた戦後と祖国のまなざし
残留兵士の群像
出版年月日 2023/01/05
ISBN 9784788517936
4-6判352頁・定価3740円
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