書評 私市保彦著『賢治童話の魔術的地図』@週刊読書人 2022年11月18日付
私市保彦著『賢治童話の魔術的地図』の書評が、週刊読書人 2022年11月18日付に掲載されました。評者は千葉一幹氏。ご書評くださいました先生、ご掲載紙ご担当者さまに深くお礼申し上げます。ありがとうございました。
優れた研究書は、推理小説に似ている。名探偵が迂闊な刑事が見落とす些細な異常に目をつけそこから事件の真相に迫り真犯人を導出するように、研究者は、通常なら読み飛ばされてしまうような、テキストにある微細な特徴に気づき、作品に秘められた特質を剔抉し、ついにはその作品の新たな姿を提示するに至る。賢治作品に関する九つの研究を集めた『賢治童話の魔術的地図』において、私市保彦は、名探偵さながらに、賢治作品の新たな相貌を読者に開示している。
・・・・・・かつて菅谷規矩男は、社会思想的にも文学的にも「孤立」した存在であった宮沢賢治を論じるにあたり、その総体を視野に入れる必要性を説き、そうした視点を欠いた研究は、「雑多なディレタンティズムの集積にとどまる」と指摘した(『宮沢賢治序説』)。この言明は四〇年以上前に出されたものであるが、賢治が生きた時代の出版物や歴史的事実を渉猟し、それらと賢治作品との関連性を指摘するのみの研究が溢れる昨今の状況下において、菅谷の指摘の重要性は失われていない。こうした賢治研究の状況を考慮すると、賢治文学を普遍的視点から論じようとする私市の試みの意味は、とりわえ大きいと言えよう。
賢治童話の魔術的地図
土俗と想像力
私市 保彦 著
2022/07/15
ISBN 9784788517622
4-6判256頁・定価3190円
在庫 在庫あり
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