書評 山口誠・須永和博・鈴木涼太郎著『観光のレッスン——ツーリズム・リテラシー入門』@『観光ホスピタリティ教育』第15号
山口誠・須永和博・鈴木涼太郎著『観光のレッスン——ツーリズム・リテラシー入門』書評が『観光ホスピタリティ教育』第15号(日本観光ホスピタリティ教育学会、2022年1月発行)に掲載されました。
評者は鮫島卓氏(駒沢女子大学准教授)です。 ご書評くださいました先生に、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
なぜ観光を学ぶのか、観光教育は誰のためにあるのか。コロナ禍でこの問いを自問する学会会員も多いのではないだろうか。コロナで不要不急の対象となった観光は、産業界のみならず観光学部・学科を擁する大学にも打撃を与えた。観光産業の業績不振は採用活動にも影響し、観光産業の人材育成機関として大学の観光教育は、出口を塞がれ、一時的にせよ機能不全に陥ったと言えるだろう。
コロナ前に観光を流行のひとつとして利用した人は一目散に観光の痕跡を消したかもしれないが、長年、実務経験や研究を続けて、観光の世界に身を置いてきた評者はそんなことはできない。コロナ禍で多くの観光産業従事者が自社の存在意義を問うたように、観光教育の現場でもその目的や意義を再考した人は少なくないだろう。そうした暗中模索の中で、本書は一筋の光を見出すものである......
本書の特徴は、ツーリズム・リテラシーという概念を用いてリベラル・アーツとしての観光学を提起し、職業教育に偏る観光教育に一石を投じたことである。ツーリズム・リテラシーとは、多くの人びとが当たり前に経験し、透明化した観光の技能を体系化する方法のひとつとして本書では示されている。
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最後に、実務家向けの観光教育を語る上でも本書は原石であることを指摘しておきたい。著者はよりよいオーディエンスの育成が結果として観光文化の醸成と観光産業にとっても恩恵をもたらすと述べているが、その逆もある。つまり観光を提供する人がツーリスト・リテラシーの技能を高めることは、よりよいメディエーター(観光業)のリテラシーを高めることにもなるということである。それはコミュニティ(観光地)のリテラシーとの関係においても同様であろう。・・・・・・ツーリズム・リテラシーを実践知として体系化することは、実学を伴う観光学にとって大きな一歩である。一方で、観光産業従事者で観光学を学んだという人は極めて少ないのが実情である。その意味で、本書は観光を提供する人のための「観光学的ガイドブック」としても良書ともいえるかもしれない。
著者 山口 誠 著
須永 和博 著
鈴木 涼太郎 著
出版年月日 2021/02/18
ISBN 9784788517066
4-6判・194ページ
定価 1,540円
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