書評 山 愛美著『村上春樹、方法としての小説――記憶の古層へ』@「臨床心理身体運動学研究」vol24 no.1 2022
書評 山 愛美著村上春樹、方法としての小説 の書評が「臨床心理身体運動学研究」vol24 no.1 2022に掲載されました。評者は廣瀬幸市氏(鹿児島大学大学院)。ご書評くださいました先生、掲載雑誌ご担当者様に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
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評者からみた本書は、「村上春樹の小説の創作過程を共に体験するような読み方を提示しながら、心理療法家が“深い井戸”の中でクライエントと出会う心理療法を進んで行く心構えを指南したものである」ということになる。勿論、心理療法家であっても村上春樹ファンならば、純粋に「なぜ村上の作品が多くの人を力づけ、惹きつけ続けているのか」の謎解きを楽しんでもらって構わないと思う。しかしながら、本稿に目を通す読者は必ずしも村上春樹ファンばかりではないと思われ、仮にそうであっても、ただ今セラピストを目指している方は言うに及ばず、既に目指して精進している方にも、心理療法家になっていくプロセスで身につけていかねばならない態度あるいは在り様を、我が学会員でもあるベテラン先輩が伝えてくれているのだということを、出だし早々にも紹介しておきたいのである。
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読者を頂上の方へご案内すべく、本書を紹介する話題の切り口は幾つもあるが、本稿では「身体性」「異界」「日本/西洋」から照射を当てていく。・・・・・・
記憶、イメージ、在/不在、開け、触れる、表現、言葉など、評者が設定した三点測量(トライアンギュレーション)では上手く“頂上”を浮かび上がらせ切れなかったテーマがまだまだある。たとえ村上春樹ファンでなくとも、これらのテーマが琴線に触れるようなら、是非ともご自身の読みでご自分の体験と照らし合わせながら本書を読み通して欲しい、と思う。ノウハウばかりを売りにしている昨今の臨床心理学専門書とは一味も二味も違う、きっと得難い時間体験を与えてくれるだろう、と請け合える。
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評者は幸運にも、本書にまとめ上げられる以前のレクチャーやワークショップを山先生から直接対面で受ける機会に恵まれ、個人的な会話を通しても心理療法に止まらず多くのことを学ばせていただいた。学会大会ですら対面する機会が得難い現状にあっては、本誌掲載の『君の名は。』を巡る考察〔山、2021〕に魅了された読者は言うに及ばず、村上春樹作品をあまり知らない読者の方であっても、本書を通して気後れせず直に著者に“対面して”いただくことをお勧めして、本書の書評に代えたい。
村上春樹、方法としての小説
記憶の古層へ
山 愛美 著
2019/12/24
ISBN 9784788516571
4-6判・244ページ
定価 本体2,600円+税
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