書評 東京大学文化資源学研究室編『文化資源学』@週刊読書人2022年1月28日付
東京大学文化資源学研究室編『文化資源学』の書評が2022年1月28日付「週刊読書人」に掲載されました。
評者は宮崎刀史紀氏。ご書評くださいました先生、掲載紙ご担当者さまにこころよりお礼申し上げます。ありがとうございました。
・・・・・・かつて「文化の時代」とはよく言われたが、今や「文化資源の時代」かと思われるほど、この言葉を頻繁に聞く。文化庁には文化資源活用課もあり、地域で「文化資源マップ」が作られたり、いくつかの大学には「文化資源学コース」のようなものもある。「文化」でなく、「文化財」でもなく、「美術」や「博物館」でもない。そうした言葉や関連諸学が抱える価値観、枠組みから改めて距離をおき、あるいは、まだ「文化」や「美術」といった世界に入る前のモノやコトをとりあげ、また「活用」したりする際の、いわば旗印として「文化資源」という言葉が重用されているようである。
本書の論考はそうした様々な境目を感じさせ、「文化」や「社会」のあり様をそんな視点から浮かび上がらせる行き来の数々であり、この二〇年の間の社会や技術の変化などが新たな研究手法や問題設定、様々なモノやコトの「資源化」につながっていることにも触れているが、そもそも「流行り」を気にするそぶりはあまり見せず、研究者それぞれの「資源」を探り当てる高度な能力と、それを支え根源へ迫る卓越した知見が「学」につながっていく基本だということをそっと強調しているようにも感じられた。既存の学問分野等でも研究対象や視点が広がってきている中で、「文化資源学!」と口にするときの戸惑いの背景はこうしたことでもあるのだろう。
あえていうなら、モノやコトの魅力をもとに、既存の学問にも精通しつつ、その境目近くを歩き、枠組みを揺さぶってみたいという人々が出入りする道場のような場がこの「文化資源学」であり、社会人学生の参画も相まって、そこに集う気概溢れた「文化資源学派」が生みだされていった二〇年間だったということではないか。・・・・・・
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文化資源学文化の見つけかたと育てかた
出版年月日 2021/10/25
ISBN 9784788517431
A5判・250ページ
定価 2,860円(本体2,600円+税)
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