書評 ジョルダン・サンド著『東京ヴァナキュラー』@日本経済新聞 2021年10月23日付
ジョルダン・サンド著『東京ヴァナキュラー』の書評が、日本経済新聞 2021年10月23日付に掲載されました。
評者は五十嵐太郎氏。ご書評くださいました先生、掲載紙ご担当者さまにこころよりお礼申し上げます。ありがとうございました。
日常生活に見る都市の記憶
・・・・・・著者は『帝国日本の生活空間』(2015年)でささやかなモノに注目しながら、近代日本の海外ネットワークを描いたが、本書でもモニュメントではなく、日常に密着したモノから東京の文化遺産や地域性の発見を考察している。
その際、各章の題材もユニークだ。第一章は、1969年の新宿西口広場をめぐる闘争、第二章は下町の生活史を取材しつつ、コミュニティを可視化させたタウン誌「谷根千」の活動、第三章は都市において逸脱した「物件」を探索した路上観察学、そして第四章は復元された街並みや建築模型を大胆に導入した江戸東京博物館などの展示施設である。・・・・・・著者がとりあげる「土着の」を意味するヴァナキュラーな経験主義は、都市の経験が抽象化されることへの抵抗である。これにシンパシーを寄せつつも、ただ賛美するわけでもない。下町が商品化されて、消費の対象にすり替わったように、ジレンマを抱えている。理論化も足りない。またノスタルジーとなった都合のよい過去としての生活展示は、政治の存在をぼかしてしまう。こうした難しい課題を抱えてはいるが、都市の「モニュメントなき遺産」の可能性を問うのが本書である。
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