書評 日比嘉高 著『プライヴァシーの誕生』@「京都新聞」2020年11月1日付
日比嘉高 著『プライヴァシーの誕生』の書評が「京都新聞」2020年11月1日付に掲載されました。
評者は長山靖生氏。ご書評いただきました先生、掲載紙ご担当者さまにこころよりお礼申し上げます。ありがとうございました。
正しい思考や判断は、事実の把握を前提とする。だから報道には正確さが求められる。そんな事実尊重の意識からか、近代小説ではリアリズムが重んじられ、写実主義や自然主義、さらに自己身辺を赤裸々に描く私小説が生まれた。作品に人生の真理を求める読者は、その基礎として「事実」を期待したのだ。
しかし、そうした表現は、時に他人の名誉を棄損し、社会秩序を乱したとして、発禁処分や法廷闘争を招いた。本書はモデル小説事件を通して、〈表現の自由、芸術性〉と〈プライヴァシー〉という矛盾する近代的な権利意識の相克と変遷を追っていく。
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小説は出来事だけでなく、心理の内奥に迫る表現であり、だからこそ私的領域と公共性をつなぎ、人間性の理解を深めるのに役立ってきた。個人情報保護や被害者感情の尊重も大切だ。だがそれが真実を求める思考まで妨げるようになったとき、私たちは自分や社会を冷静に見詰めるすべの一つを失うのかもしれない。
プライヴァシーの誕生
モデル小説のトラブル史
日比 嘉高 著
出版年月日 2020/08/12
ISBN 9784788516854
判型・4-6判・308ページ
定価 本体2,900円+税
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