書評 小倉孝誠編著『ワードマップ世界文学へのいざない』@図書新聞 2020年9月5日号
小倉孝誠編著『ワードマップ世界文学へのいざない』の書評が図書新聞 2020年9月5日号に掲載されました。評者は大浦康介氏。
ご書評くださいました先生、ご掲載紙ご担当者様に心よりお礼申し上げます。
・・・・・・本書『世界文学へのいざない』は、日本や欧米はもちろん、中国、韓国、ラテンアメリカ、カリブ海、アフリカといった諸地域の文学を、作品単位で扱った論集である。計三〇の論考は、「自己と他者」、「性愛とジェンダー」、「異邦と越境」、「歴史をどう語るか」など、八つのテーマのもとに章分けされ、それらを縫うようにして、より一般的なジャンル論や地域文学論(ラテンアメリカ文学、フランス語圏文学、沖縄文学など)で情報を補完するコラムが配されている。コンパクトで中身が濃い論集である。それぞれの論考には、対象作品のあらすじを丹念に追うものもあれば、作者の出自や経歴や作品の成立過程にふれるものもある。歴史的・社会的位置づけを重視するものもあれば、物語構造の解明やテクスト分析に踏み込むものもある。ジェイン・オースティン、ディケンズ、バルザック、ゾラ、カフカ、ジョイス、トーマス・マンといった「大御所」が扱われる一方で、久生十蘭、林芙美子、崎山多美、マルコムXといった「マイナーな」作家にも光が当てられる。アメリカのフェミニスト作家シャーロット・パーキンス・ギルマンの日記小説、スペインの児童文学作家エレーナ・フォルトゥンやカタルーニャ語で書いたマルセー・ルドゥレダの作品、南京陥落を扱ったアーロンの群像小説、二十世紀中国の波乱万丈の歴史を描く李鋭の大河小説など、私のように本をあまり読まない人間には発見も少なくなかった。一冊で何度も「おいしい」本である。
現下のコロナ禍を意識した、本書の副題にもある「危機の時代」云々は、失礼ながら私にはセールストークに聞こえる。そんなキャッチフレーズなどなくても、本書には読み応えのある論考がいくつも並んでいる。順番など気にせず、場合によってはテーマ分けすら無視して、食指の向くままに読み進んでいいのではないか。書誌情報も充実しているので、文学研究を志す学生や若手研究者にとって貴重なハンドブックともなるだろう。
ワードマップ 世界文学へのいざない
危機の時代に何を、どう読むか
小倉 孝誠 編著
2020/06/05
ISBN 9784788516830
4-6判・328ページ
定価 本体2,700円+税
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