書評 日比嘉高 著『プライヴァシーの誕生』@図書新聞 2020年9月26日号
日比嘉高 著『プライヴァシーの誕生』の書評が「図書新聞」2020年9月26日号に掲載されました。
評者は中山弘明氏。ご書評いただきました先生、掲載紙ご担当者さまにこころよりお礼申し上げます。ありがとうございました。
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・・・・・・(そして)本書の読みどころになっているのは、「漱石山脈の争乱」として有名な、長女筆子をめぐる久米正雄と松岡譲の「破船」事件である。これを「ゴシップの時代」の先駆けと読み、〈私的領域〉の商品化として論じていくことで、旧来からある「閉じた文壇」、「自閉的な私小説」という文脈を反転させ、大衆文学への通路を開いていく展開は鮮やかである。著者は言う。「『純文学』は閉じていない」と。〈私的領域〉への窃視の願望は、実話・告白・ゴシップを欲望する読者の意識レベルではなんら相違ないことになる。・・・・・・
「ゴシップ」を鼻白むことはたやすいが、こうした〈私的領域〉の商品化の中に、本書が突く文学の本質的な部分があることもまた疑いがないからだ。あるいは文学研究にもう少し接近するなら、こうした作家とモデル問題を体系的に追跡した先駆として神崎清著『名作とそのモデル』(一九五〇)がある。これは、伊藤整『日本文壇史』の参考文献としてもあげられるが、神崎は「女学生の卒論に供する」ことを目的に、『少女文学教室』などの一連の書物を陸続と刊行しており、このあたりが恐らく文学研究と「モデル」問題の学的源流ではないかと思える。
・・・・・・本書が追求しているものは、けして上辺のゴシップではない。むしろ極めて人間的な「出来事の手触り」でこそあることを忘れたくない。
プライヴァシーの誕生
モデル小説のトラブル史
日比 嘉高 著
出版年月日 2020/08/12
ISBN 9784788516854
判型・4-6判・308ページ
定価 本体2,900円+税
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