服部徹也『はじまりの漱石』 第28回 やまなし文学賞 研究・評論部門選評
第28回 やまなし文学賞 研究・評論部門 を受賞いたしました、服部徹也著『はじまりの漱石』の選評をいただきましたので、こちらに引用させていただきます。選評委員の先生方、文学賞主催者・ご担当者の方々に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
選評
研究の重みと、その魅力を伝える 中島国彦
今年は、お二人が最初に世に問うた書物を、多くの方に紹介し、顕彰できたことを喜びたい。
服部徹也『はじまりの漱石』は、丹念な文献操作をベースに、漱石の作家的出発を描いた、近年の漱石研究の見事な達成である。全集一巻分のロンドン時代の断片的な「ノート」からではなく、東京帝国大学での「講義」の内容を見据え、全国各地に所蔵されているいくつもの受講者のノートの分析から漱石の文学意識を明らかにし、それらが「倫敦塔」「草枕」「二百十日」「野分」などの初期作品と密接な関係を持つことを分析する。新発見の資料も紹介され、刊行中の岩波の新全集に生かされたことも記憶に新しい。明晰な文章で『文学論』や『英文学形式論』の意味が浮かび上がる論述は、文学研究の一つの目指すべき姿を示すものとして高く評価できる。
文学研究のあらたな地平 関川夏央
服部徹也『はじまりの漱石 『文学論』と初期創作の生成』には、驚いた。
漱石の『文学論』は、生意気な若者が高校か大学のときに読もうとして、例外なく途中で投げ出した本だが、その内容がこの『はじまりの漱石』ではじめて腑に落ちた。「狂セリ」といわれたほどの漱石のロンドンにおける勉強ぶりが、何をもとめてのことだったのか、よくわかった。
漱石は英国人研究者、D・フラナガンがいうように世界的存在だと思う。現在そのように認識されていないのは、作品中に西洋人の俗耳に入りやすい「日本趣味」がないからだ。そうして日本の国文学者が「いまさら漱石?」と訝しむのは、たんに怠惰である。
それにしてもネットは恐ろしいほどの利便をもたらした。著者はOCRをかけた本文検索で中文訳の『文学論』まで参照、近代東洋への影響を検討して漱石の奥深さを実証した。
研究の文体、本のタイトル 兵藤裕己
服部徹也『はじまりの漱石』は、漱石の『文学論』の成立過程を検討することで、その理論と実作の関係を問いなおした本。東大英文科での漱石の講義を受講した学生たちのノートをもとに、その講義内容を復元し、そこから、漱石本人にとって満足のいく出来ではなかった刊本『文学論』を読み返して、『吾輩は猫』等の初期作品の新たな読みの可能性を示す。漱石論に着実な一歩を刻んだ研究書といえるが、柔軟で読みやすい文章は、研究の文体として新しく、「はじまりの漱石」という標題もじつによい。
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『はじまりの漱石 』
『文学論』と初期創作の生成
服部 徹也 著
2019/09/06
ISBN 9784788516434
A5・400ページ
本体4,600円+税
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