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2020年4月13日 (月)

書評 山 愛美著『村上春樹 方法としての小説―記憶の古層へ』@図書新聞 2020年4月18日付

 山 愛美著『村上春樹 方法としての小説―記憶の古層へ』の書評が「図書新聞」2020年4月18日付にて掲載されました。評者は髙橋龍夫氏。評者の先生、掲載紙ご担当者様、ありがとうございました。こころよりお礼申しあげます。

 

 

村上春樹に関する論考は、国内外を問わず本人の著作を超えるペースで毎年出版されているが、2019年と20年をまたぐ二カ月間に刊行された『村上春樹 方法としての小説―記憶の古層へ』、及び『文化表象としての村上春樹―世界のハルキの読み方』の2冊は、アプローチとして全く反対のベクトルを向きながらも、いずれも春樹論の新たな水準を拓くものとして注目に値する。

前者は、春樹のエッセイやインタビューにも周到に目配りしながら創作の内実を心理療法的なアプローチによって追体験的に探っていく。井戸の比喩を多用する春樹は自己の魂の深部と向きあいながら創作を実践する作家として知られている。臨床心理学・深層心理学を専門とする山愛美は、臨床的な心理療法の実例を挙げながら、共同体的な記憶の古層にむけて他者との繋がりを見出そうとする春樹の奥深い創作過程を丹念に検証する。特に、『風の歌を聴け』に登場する架空の作家デレク・ハートフィールドをめぐる分析は、春樹の世界観を探る上で不可欠な要素としてこれまでになく解明され、きわめて興味深い。

また本書が示唆に富むのは、春樹が、いかに日本に根を持つ作家であるかを具体的に再認識できる点にある。その理由は、著者が着目する春樹の発言や作品の叙述の分析から、生と死、内と外、現実と非現実、東洋と西洋、在と不在、あるいは一箇所に定住しない住み移りのスタンスなど、いずれも西洋近代の二項対立的な思考法や中心と周縁を区分する発想法、もしくは特定の観念に固執した見方に束縛されずに捜索する春樹のスタンスがよく見えてくるからである。著者が心理療法のプロとして、クライアントに寄り添いつつ複眼的な視点から慎重に対応していることに由来するのだろう。対象に対して融和的で、且つそこから距離を置く冷静な分析方法が文学にも十分に活かされている。村上春樹という生身の作家を読者とともに記憶の古層から共有しようとする本書は、春樹ファンにとっても、また、文学研究者にとっても春樹を理解するための様々なヒントが散見されるだけでなく、平易な文体で実作者に寄り添う洞察は、著者の体温を感じさせ、不思議と読者をも魂の深いところを見つめ直そうとする想いへと静かに誘う。・・・・・・

 

 

9784788516571  村上春樹、方法としての小説
 記憶の古層へ
 山 愛美 著
 2019/12/24
 ISBN 9784788516571
 4-6判・244ページ
 定価 本体2,600円+税

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