武岡 暢 著『生き延びる都市』書評@2017年9月9日付「図書新聞」
「「特殊」のなかに「普遍」を読み解く」
武岡 暢 著『生き延びる都市――新宿歌舞伎町の社会学』
の書評が、2017年9月9日付「図書新聞」に掲載されました。評者は山本薫子先生。
ご書評いただきました先生、書評誌ご担当者さま、ありがとうございます。こころよりお礼申しあげます。
日本で最も知られている歓楽街・歌舞伎町の商店街振興組合、不動案オーナー、風俗産業関係者。路上の「キャッチ」「客引き」らに対する社会調査の分析をまとめた新進気鋭の社会学者の書
武岡 暢 著『生き延びる都市――新宿歌舞伎町の社会学』
の書評が、2017年9月9日付「図書新聞」に掲載されました。評者は山本薫子先生。
ご書評いただきました先生、書評誌ご担当者さま、ありがとうございます。こころよりお礼申しあげます。
日本で最も知られている歓楽街・歌舞伎町の商店街振興組合、不動案オーナー、風俗産業関係者。路上の「キャッチ」「客引き」らに対する社会調査の分析をまとめた新進気鋭の社会学者の書
……本書の特徴の一つは、新宿歌舞伎町や性風俗店等という、それ自体が特別視され、また注目されやすい対象を扱っていながら、分析に用いる枠組みはあくまでオーソドックス、古典に徹している点である。先述した「仲介」ではジンメルの媒介=分離のメカニズムに基づいて説明がなされることで、特殊な人々の限定された行動としてではなく、普遍的な人間、社会の動態の一例として読者は理解することができる。
全体的に筆致は抑制され、歌舞伎町という場における、あるいは関連する主体の諸活動がいかにして存続されてきたのか、という問いの解明に著者は集中する。たとえば、性風俗店の店舗がその経営のために女性従業員たちを「飼い殺し」の状態に置くマネジメントの内容が本書では紹介されている。これは、待機時間が長いなど(その間の報酬はない)好待遇に置かれていない従業員に対して情緒的資源を動員する(「自分は必要とされている感じを与える」)ことによって、店舗にとっては都合がいい(女性従業員にとって有益とは客観的に評価し難い)状態が維持され続けていることを指す。性風俗産業にまつわるこれらの事象やその構造はすでに各種ルポルタージュや報道等で紹介されているものであるが、本書では女性の貧困や人権等の視点は導入せず、あくまでも店舗存続、産業継続に関するメカニズムの分析に徹している。さらに、こうしたじでょうのは池にある店舗内の閉鎖性に対して、歌舞伎町におけるストリート(路上)の開放性についても注目がなされる。商店街振興組合による街頭パトロールへの同行を繰り返すなかで、著者は組合員ら(ビルオーナー)と客引きやスカウトとの巧妙な棲み分けを発見しているが、これは本書においてもオリジナリティのある、出色の着眼と分析と言っていいだろう。……
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