書評 田中研之輔 著『都市に刻む軌跡』@図書新聞
田中研之輔 著都市に刻む軌跡
の書評が、図書新聞2016年11月26日号にて掲載されました。評者は山口晋氏。ありがとうございました。
私は大学院生時代から今に至るまで、田中さんの論文をよく読み、大いに刺激を受けてきた。私自身、都市のストリートで活動するアーティストとそれに対する取り締まりの研究をしており、かれの仕事は、私のそれに近いと常々(勝手に)考えていた。新たな論文が発表されると図書館でコピーしたり、取り寄せの依頼をしたりした。このたび、学会誌や書籍に掲載・収載されてるそれぞれの論考が、1冊の書籍になって手にとることができるのは本当にうれしいことである。
さて、本書で田中さんらしいエスノグラフィックな書きぶりが直に伝わってくるのが、第3章~第6章だろう。第3章の冒頭で、「知り合いはひとりもいない。自ら行ってみるしか方法はない。2001年5月28日の夕方、土浦市のスケボーショップへと向かった。その店舗で16800円のスケートボードを購入し、その日から土浦駅西口広場に通うことにした」(90頁)とあるが、かれが逡巡しつつも、土浦駅西口広場でのフィールドワークを始めようとする状況が伝わってくる。実は、この状況をより詳しく描いたものが、渡辺潤・伊藤明己編『〈実践〉ポピュラー文化を学ぶ人のために』(世界思想社)の154~157頁にある。そこに書かれている「こわばる身体には、ときには、勢いが必要だ」(157頁)は、まさにその通りだし、私もよく経験したことで、とても納得できる。フィールドワークのよい教科書として、学生さんにぜひ読んでほしいと思う……
田中研之輔 著
都市に刻む軌跡
―スケートボーダーのエスノグラフィー
四六判上製274頁
定価:本体3200円+税
発売日 16.3.25
ISBN 978-4-7885-1469-0
最近のコメント