書評 『霊性の震災学』@ 文春図書館「私の読書日記」酒井順子氏評
「週刊文春」、2016年7月28日付、酒井順子氏「私の読書日記」に
金菱清〔ゼミナール)編
東北学院大学震災の記録プロジェクト『「呼び覚まされる霊性の震災学』がとりあげられました。
「死について考える」というエッセイのなかで、3冊とりあげらたなかの一冊です。
ちなみに他の2冊は
『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』(ガワンデ著、みすず書房)
『人間晩年図鑑』(関川夏央著、岩波書店)です。
評者の酒井順子先生にはこころよりお礼申し上げます、ありがとうございました。
・・・・・・ 一方で、全く予期しない時に死がやってくることがある。突然人生が終わってしまった時、本人にも周囲にも、別れの覚悟ができていないことになる。 東日本大震災で発生した津波は、特定の地域に、特定の時間帯の、尋常ではない数の死をもたらした。数としての死ではなく、一人一人の人間の死としていかに理解していくか。それをゼミの学生と共に考えたのが東北学院大学の金菱清教授。『呼び覚まされる霊性の震災学 3.11 生と死のはざまで』(新曜社 2200円+税)は、学生達との「震災の記録プロジェクト」をまとめた書である。
石巻等で、「亡くなった人を乗せた」という体験を持つタクシードライバー達。震災後、多くの慰霊碑が建つ中、新たな慰霊の形を提示する閖上中学の慰霊碑を建てた、遺族達。仮設住宅に多くの物資や慰問が入る中、両親を津波で亡くしながらも、被害の少ないマンションに住んでいたために、深い疎外感と孤独感を覚えざるを得なかった女性。
・・・・・・プロジェクトのメンバーは、震災によって突然の死と向き合わざるを得なかった人たちの話しを丁寧に聞き、まとめていく。学生と思われる書き手の文章は時に初々しいが、死を自分の身近なものとして感じづらい若者にとって、その経験は重く貴重だったのではないか。
普段の生活からは、慎重に覆い隠されている、死にまつわる世界。被災した人達は、津波や放射線という非常時と同時に、突然の死の世界の露呈という非常時にも対応しなくてはならなかったのであり、そのときの向き合い方をプロジェクトでは明らかにしていった。 ・・・・・・
金菱清〔ゼミナール)編
東北学院大学震災の記録プロジェクト
四六判並製200頁
定価:本体2200円+税
発売日 16.1.20
ISBN 978-4-7885-1457-7
最近のコメント