書評 馬場公彦著 『現代日本人の中国像』 図書新聞9月27日付
馬場公彦 著
『現代日本人の中国像』の書評が、
2014年9月27日付 図書新聞に掲載されました。評者は楊海英氏。評者の先生、掲載紙ご担当者様にはこころよりお礼申し上げます。ありがとうございました。
・・・・・・外交当局のみならず、民間の多元的な動向にも注視した力作である。日本には成熟した公論があるが、中国は多様な思想の登場が許されないので、自ずと日本側の視点が中心となっている。
私は本書を自らの人生経験に即して理解しなおした。「中国共産党にリードされて、侵略者の日本を駆逐して創った社会主義国家」で初めて見た日本の映画は山口百恵出演の「赤い疑惑」だった。中学生だった一九七九年のことである。殺人と放火等の行為だけで描かれてきた「日本鬼子の国」の喜怒哀楽は文革の圧政で喘いでいた人民にとって、人類普遍の価値観を将来したような衝撃だったのを鮮明に覚えている。この頃の日本はパンダとシルクロードのブームに沸き、辺境に暮らす人々の素朴にして強靭な精神も伝わってきた。
・・・・・・日本は結局、中国の変貌を望む全世界の良識ある人たちを裏切った。先進国のなかで一番早く経済制裁を解き、天皇訪中を実現させて「戦略的互恵関係」を立て直そうとした。その結果、東京で民主化運動を展開していた私の友人たちもほぼ全員、日本に失望して欧州に渡って行った。天安門事件で日本に「クリアな中国像」ができたと著者は主張するが、制裁を解除された中国から感謝されることはなかった。日本の無節操な援助で世界第二の経済大国となった今日、懲罰すべき対象もベトナムから「悪魔たる日本」に変わった現実は、まさに歴史の皮肉である。
中国を語るときに欠かせないのはその周辺からの視点である。台湾像とモンゴル像の変転から中国の別の側面を浮かび上がらせる、と著者は戦略的である。そして、本書に収録された、半世紀にわたって中国研究に携わってきたシノロジストたちの本音の吐露も今後の研究の方向性を決定するにちがいない。「中日友好」や「老朋友」を語って何とか利益を引き出そうとする相手と距離を置いて思考する時代が到来したからである。
A5判上製402頁
定価:本体4200円+税
発売日 14.5.9
ISBN 978-4-7885-1386-0
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