書評 中山元著『ハンナ・アレント〈世界への愛〉』
中山 元 著
A5判上製520頁・定価5985円
発売日 13.10.25
ISBN 978-4-7885-1341-9
の書評が、1月31日号 2014年 週刊読書人に掲載されました。
評者は高田宏史氏。
……本書は二部構成を採用している。第一部は、アレントの視点を通した西洋政治思想史の再解釈である。アレントの思想史解釈に従い、古典古代から近代にいたる西洋政治思想史の伝統が、必然的な結末でないにしても、全体主義を将来するにいたったその理路を、本書は見事に整理している。
第二部では、アレントのアイデンティティを、彼女の自己認識に従って「ユダヤ人女性」として定位しながら、全体主義に抗う「新たな公的領域の構築の可能性」をめぐる苦闘を彼女の著作に寄り添いつつ丹念に読み解いていく。本書の明らかな特徴であり美点は、アレント自身の書いたものによりアレントの思想の全体像を構築しようとしている点である。アレント自身の著作は独特の晦渋さがあり一般読者には容易に近寄りがたい。また、彼女の広範囲にわたる著述活動のゆえ、各著作相互の関係は簡単に見通すことができないほど複雑である。本書はこうした難解なアレントの思想のテクストとコンテクストに、彼女自身の言葉を再構成することで明快な見通しを与えている。本書の「終わりに」において、引用だけで一冊の本を作り上げようとしたベンヤミンの試み――この試みはアレント自身も注目し、その方法を海に沈んだ「失われた宝」を探し求める「真珠採り」にたとえている――への言及がある。その意味でいえば、本書もまたアレントの思想の解明を通じて西洋政治思想史の伝統の中の「失われた宝」を取り出そうとする試みであると言えるだろう。
では、そこで取り出されるべき「失われた宝」とは何であるのか。……
評者の先生、掲載紙ご担当者さまに心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
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