書評 稲上 毅 著『ヴェブレンとその時代』
A5判上製704頁・定価6720円
発売日 13.6.28
ISBN 978-4-7885-1340-2
の書評が2013年10月19日付け図書新聞に掲載されました。
評者は江頭進氏。
評者の先生、掲載紙ご担当者に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ソーステイン・ヴェブレンは特異な経済学者である。彼の議論はオリジナリティが強く、誰にも似ていない。ダーウィン、歴史学派、プラグマティズム、カント、ヒュームなど多くの先達から影響を受けているようで、実は誰の議論を継いだわけでもない。学史家なら誰でも感じる、19世紀の知的潮流におけるヴェブレンの位置づけの難しさに、詳細な文献研究と先行研究の批判に基づいて正面から挑んだのがこの本である。
本書は、ヴェブレンの人生および研究生活をだどる形で構成されている。ヴェブレンの私生活や学生生活の知的環境を一つずつたどり、主要著作にかんしてはその刊行の前後の私信などを読み解くことで、彼が主張にたどり着いた道筋が明らかにされていく。
ヴェブレン評伝の古典であったドーフマンの著作の正誤の検証が全編を通じておこなわれている。これまで手つかずであったヴェブレンと周辺の書簡や資料がふんだんに使用され、ヴェブレンの生涯がつまびらかにされる。本書は、他の研究のような個々の概念の集中的な分析を行っているわけではないが、ヴェブレンの思考をたどることができるという点で得るところが多い。・・・・・・
本書では、『営利企業の理論』(1904年)以降のヴェブレンを本格的に取りあげている。ヴェブレンの著作のうち有名な『有閑階級の理論』(1889年)と『営利企業の理論』は比較的よく読まれてきた。しかし、その後の『制作者本能』(1914年)、『帝政ドイツと産業革命』(1915年)、『平和論』(1917年)は、専門の研究者以外に読まれることはほとんどないし、「資本の本質について」(1919年)になると研究を見かけることもない。だが、これらの著作は、ヴェブレンの進化論的経済学の到達点であり、本来は現代の進化経済学者がもっと注目してもいいはずのものである。・・・・・・
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