書評 ヴァカン著 『ボディ&ソウル』
四六判上製416頁・定価4515円
発売日 13.2.1
ISBN 978-4-7885-1319-8
の書評が、7月6日付 「図書新聞」に掲載されました。評者は好井裕明氏。
……日本では著者はブルデュー社会学の関連で理論的学説的に紹介されることが多いようだが、本書を読む限り、それは一面的であることがわかる。著者も主張しているように、本書は初期シカゴ社会学派からの都市研究に深く根付いている偏見、すなわちゲットーとは欠乏や困窮、貧困による乱雑で無秩序な世界という思い込みを拒絶し、ゲットーそれ自体がもつ豊饒な秩序の世界を明らかにし、ゲットーへの偏見を意味付けていた権力関係や社会的搾取や排斥を明らかにしていく都市下層の生活文化のエスノグラフィーである。また、その目的のために有効な道具として選ばれたボクシングの最も基本的なところは、言語に頼ることなく、無意識のなかで伝達されていく高度な肉体的実践であり、ボクシングというスポーツに固有の技芸がいかに鍛錬を通して人間に習得されていくのかを、できるかぎり詳細にかつ了解可能な記述を試みたスポーツ社会学の優れた形なのである。
……
ところで、日本の社会学では、理論書や思想書、経験的な調査分析書などの翻訳は多いが、こうした優れた質的なモノグラフの翻訳はなかなかなされないものだ。それは、口語や俗語表現がちりばめられた原著を翻訳する難しさもあるからだろう。田中研之輔、倉島哲、石岡丈昇という訳者は、各自の専門領域研究を進める上で、本書を訳出する必然性があったのだと言うが、はるかにそれ以上に本書は訳出される価値があるだろう。優れた訳書を創造された三名の気鋭の社会学研究者に敬意を表したい。
評者の先生、掲載紙ご担当者に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
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