書評 中山弘明 著 第一次大戦の〈影〉
中山弘明 著
四六判上製336頁・定価3360円
発売日 12.12.14
ISBN 978-4-7885-1315-0
の書評が、5月25付図書新聞に掲載されました。
評者は加藤弘一氏。
戦争と文学というテーマは語りつくされた感があるが、「第一次大戦と日本文学」というありそうでなかった視点から大正期の思潮を読みとく試みである。
・・・・・・本書は文学の山すそをめぐってさまざまな話題がめまぐるしく論じられ、さながら当時流行したレビューのようであるが、基軸となる柱は一本通っている。いわゆる「大正生命主義」批判である。一九世紀末、科学への反動からベルクソンやニーチェの反合理主義的哲学がもてはやされ、神智学や降霊会などのオカルティズムも流行した。その波は大正期の日本にも達し、文芸界や思想界に「生命」という言葉が氾濫するという形であらわれた。
・・・・・個と普遍の直接的な結合が生命主義の魅力であるが、普遍と見えたものが特殊にすぎない可能性はつきまとう。人類のため、世界のためが民族のため、国家のためにすりかわってしまうかもしれないのである。
本書がとりあげる社会講談やページェント、短歌、新聞等々のテーマは個と普遍を媒介する特殊の領域に属する。大正生命主義というとらえ方は本書のような批判をともなってはじめて有効な視点となるだろう。
評者の先生、掲載紙ご担当者さまに心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
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