新刊 中山弘明『第一次大戦の〈影〉』
中山弘明 著
第一次大戦の〈影〉
四六判上製336頁・定価3360円
発売日 12.12.14
ISBN 978-4-7885-1315-0
見本出来ました。12月14日配本です。12月19日ごろ書店に並びます。
あとがき
日本では振り向かれることの少ない「第一次大戦」に興味を覚えたのは、もう随分以前のことになる。学部以来、私のテーマであった島崎藤村の『新生』を修士論文でとりあげた時分だから、二〇年近くたつ。『新生』とどう取り組むか―当時は、フランスから作家の目線で実証的に調査する方法が様々試みられていた。こうした「向こう側」から作品に光を当てるやり方に、何かしら飽き足りないものを感じていたことも確かだろう。もっと率直にいえば、フランスに飛び出す「勇気」と費用もなかったのだ。「向こう側」でなければ、どのような選択肢が残っているか。言うまでもなく「こちら側」だろう。『新生』が掲載された前後の『東京朝日新聞』を、ひと夏かけて図書館のマイクロを使って読んでみようという、ドロ臭い考えが生まれた。新聞記事を読み進めるうちに、膨大な第一次大戦の戦時報告が、否応なく目に飛び込んできた。そうか、藤村は世界戦争と遭遇していたんだという事実を突きつけられる思いがした。当時の戦争記事の中に、日本の文学作品を置いてみることを思いついたのはその瞬間だ。日本の新聞読者は、このような次元で〈海の彼方〉の世界戦争を消費していたのかという素朴な衝撃があった。爾来、「第一次大戦と日本文学」のテーマを自分に課して、細々と論を紡いできた。当然、近年の様々な戦争論も視野に入れねばならなかったが、むしろ注意したのは、「戦争と文学」というテーマは、どこか紋切り型で、制度的な議論に陥りやすい点だ。特に世界戦争というのは、あまりに巨大でとりつきにくい。むろん「第一次大戦」に関する欧米の研究の蓄積は多少は承知しているつもりだ。本書のミソは、それを日本のしかも文学に関わる次元で検討してみたところにある。戦争は、とかく直接的な問題として議論されやすいが、第一次大戦という問題系を設定することで、その日本における〈影〉の如きものを析出することが可能になるのではあるまいか。その上で、できる限り具体的でささやかな次元に拘ることにした。従来の「大正文学史」とは異なる視点を提示してみたかったからである。
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