新刊 安田裕子『不妊治療者の人生選択』
安田裕子 著
不妊治療者の人生選択
A5判上製304頁・定価3990円
発売日 12.09.20
ISBN 978-4-7885-1304-4
見本出来ました。9月25日配本です。9月28日ごろ書店に並びます。
はじめに
はじめに 生殖は、人間が存在する限り絶えることのない、種の保存のための自然の営みである。子どもをもちたいという欲求は、社会文化的な影響を受け、住まう地域 によってその特徴に違いがあるにせよ、多くの人がもち合わせているものだろう。不妊はこうした欲求が阻害された状態であり、子どもを産み育てるという、思 い描いていた人生を実現することができないために、不妊の夫婦は2つの重大な危機に直面する。1つは、女性としてあるいは男性として、生理的に備わってい るはずの機能を発揮することができないことによって起こる危機である。とりわけ、幼い頃から思春期・青年期を通して、産む性として自己を 認識してきた多くの女性にとって、子どもをもちたいにもかかわらず妊娠・出産できないということは心理的な危機となる。もう1つは、種の保存という側面と も密接に関連しているが、夫婦や家族の関係性の問題として捉えられる危機である(森 1995)。不妊は、子どもという愛着対象の喪失、アイデンティティ形成への影響、対人関係での葛藤や困難など、種々の問題を生じさせ(Rosen & Rosen, 2005)、個人・夫婦・家族にとって多岐にわたる心理的・発達的危機として経験される。
不妊治療は、望んでも子どもをもつことができない不妊の夫婦の、希望の拠り所になっている。特に、近年の生殖補助医療技術の高度化・先端化は、自然には 受胎することのできない、あるいは受胎しにくい夫婦の生殖を補助するものとして、重要な役割を果たしている。そして、こうした生殖補助医療技術の発展に伴 い、不妊治療現場における心理的な支援の必要性が指摘されている。筆者は臨床心理学を専門に学んできたが、不妊に悩む女性たちの子どもをもつことへの切な る願いを女性として理解できた。そして、人工的に受胎することの是非という問題を超えて、不妊治療における心理的支援を、単に施術前後の支援として捉える のではなく、女性の人生という生涯発達の中に位置づけて捉えることの必要性と重要性を、強く認識することとなった。本書は、こうした問題意識が筆者の中に 立ち上がってきたことに端を発している。
不妊治療に通う人々にその経験をお聴かせいただきたいと思いながらも、その場を見つけることができないでいたなかで、治療でも受胎することなく、養子縁 組で子どもをもつことを考えた女性に出会う機会を得た。彼女たちは子どもをもちたいという望みを叶えるために不妊治療に通ったが、結局は受胎しなかった。 しかし、それで諦めるのではなく、子どもを産むことができなくても育てたいと、子どもをもつことにまつわる思いの変化を経験していた。
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