新刊 中村桂子 編 JT生命誌研究館発行『編む』
中村桂子 編
JT生命誌研究館発行・新曜社発売
編む
――生命誌年刊号 vol.65-68
A5判278頁 定価 本体1905円+税
12.02.29 978-4-7885-1272-6
の見本出来ました。配本日は2月28日。絶賛発売中です。
毎号凝りに凝った装丁の本書ですが、今号は「編む」にちなんだ「おまけ」ついております。手にとってお確かめいただけたらと思います。
子どもの頃編み物が好きでした。太平洋戦争中と戦後ですから、毎年母がセーターをほどいて少し大きく編み直してくれていました。時には染め直して新しい 色にしたり、胸に犬の模様を編みこんでくれたり。洗い上がった毛糸の輪を両手にかけて、新しい玉を作っていく母の手元を眺めながら、今年はどんなセーター ができるかとわくわくした気持を今も覚えています。私は、少し古くなってしまった毛糸をもらって靴下を編むのです。何をやっても負けてしまう兄よりも上手 にできるのが嬉しくて得意になって編んだものです。
社会が豊かになり、セーターの編み直しをしないようになった頃、レース編みに凝りました。テーブルクロスを編み上げるのに何回手を動かしたことでしょ う。「編む」というテーマをとりあげ、久しぶりに思い出し、あの頃の時間はなぜあんなにゆったり流れていたのだろうと思います。
サイエンティスト・ライブラリーに登場していただいた先生方の子ども時代のお話もゆったりした時間の流れを感じさせました。そしてそれこそが創造的なお仕事の原点にあると思いました。
自然の編み目は長い時間をかけてつくり上げられたものであり、それを少しづつ解きほぐしていくのが生命誌です。解きほぐしはていねいにしなければ、網そ のものを壊しかねません。なんだか急ぎ過ぎている最近の社会に対して、三月十一日以降何をそんなに急いでいるのですかと問う動きが少しづつ出始めているよ うな気がしてこれからの流れに期待しています。
その中で国賓として来日なさったブータン国王夫妻は光っていました。子どもたちに竜の話をし、「経験によって心の竜を育て、感情をコントロールできるよ うにしよう」とにこやかに話される姿からは、みんなの幸せにつながらないような目標に向けてなにをそんなに急いで走っているのですかという問いが感じられ ました。
とりとめもなくあれこれ書きましたが、編むという言葉と一年間つき合っているうちに、編集するという意味も含めて、ここにあるのはコツコツとていねいにつくり上げていく精神であることに気づいたのです。これからも大事にしていきたいことです。おつき合い下さい。
中村桂子
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