書評 和田敦彦 著『越境する書物』
和田敦彦 著『越境する書物』
11.08.05
978-4-7885-1250-4
A5判368頁・定価4515円
の書評が「読む営みの本質を改めて捉え返させてくれる力作」として、図書新聞2012/1/14付に掲載されました。評者は後藤嘉宏氏
・・・・・読み書き能力は自明のもの、最初から与えられているものではない。母語でもそうである。ましてや外国語ではそのことが著しい。読む教育がなければ書物の中身を解することのみならず、叢書を整理し使えるようにすることすらおぼつかない。その意味で研究機関や大学の図書館等、それぞれの研究の場の固有性に結びつけて読む力について考察し、リテラシー史という形で読書や叢書を論ずる本書の方法は、既存の読書史の盲点を衝いている。外国語の事例でみえてきた問題ではあるが、本書のこの方法は母語にも妥当し、読書史を豊かにしていく。読むことの自明性を突き崩し、読書の場を形成し「情報の受容を支えている(広い意味での)技術を問う形で考え」(『メディアの中の読者』)ていくことが、著者のここ十数年来一貫した方法であり、今回読む技術として、語学力、書物の入手力、目録化等が注目されていると評せる。
著者は、個々の行為者の思いと、それをとりまく場つまり当時の政治社会状況、これら双方に着目することで、重いとおりの結果を得る者、逆の結果を被る者それぞれを、人物をしっかりと描くことで書き分ける。民間の文化交流として合衆国に日本の書物を伝えようとする人々の「非政治性」「純粋」さが、かえって政治性を帯びるという逆説。あるいはプロパガンダの道具として送った書物が、敵情を知る諜報、intelligenceの資料として使われるという、主に前書で示された逆説。本書並びに前書は数々の逆説を示す事例に富んでいる。・・・・・・
読むこと ・知ることの本質論を改めて捉え返させるという意味で、著者の提唱するリテラシー史の奥行きはきわめて深い。
掲載紙ご担当者、評者の先生に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
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