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ポール・リクール 著
ジョージ・テイラー 編 川﨑惣一 訳
『イデオロギーとユートピア――社会的想像力をめぐる講義』
11.06.10
A5判504頁・定価 本体5600円+税 ISBN 978-4-7885-1235-1
6月1日配本 発売は6月3日
本書はポール・リクールのLectures on Ideology and Utopia, Ed. George H. Taylor, New York: Columbia University Press, 1986の翻訳である。翻訳にあたっては、内容の読解および翻訳の大胆さという点で、フランス語版(L'ideologie et l'utopie, Trad. Myriam Revault d'Allonnes et Joel Roman, Paris: Editions du Seuil, 1997)が参考になった。なお、副題は邦訳のオリジナルであり、原書にはないものである。
著者のポール・リクールについては、おそらく説明の必要もないくらい著名な現代フランスの哲学者である。その著作はほとんどすべて邦訳されており、リクールの略歴や業績についても広く知られているであろう。とはいえ、本書ではじめてリクールのことを知る読者もいるかもしれない。そこで、リクールについて簡単に紹介しておく。
リクールは一九一三年二月二十七日、フランス南東部のヴァランスに生まれた。レンヌ大学とパリ大学ソルボンヌ校で学んだあと、第二次世界大戦に出征し、五年間の捕虜生活のうちにフッサールの『イデーンⅠ』を仏訳した。ストラスブール大学、パリ大学ソルボンヌ校で教鞭をとり、一九六四年にパリ大学ナンテール校に移った。一九七〇年よりシカゴ大学神学部教授を兼任し、ほかにもルーヴァンやモントリオールの大学でも講義を行なった。二〇〇〇年京都賞を受賞。二〇〇五年五月二十日に、自宅のあるパリ郊外のシャトネ=マラブリーでその実り多い生涯を終えた。
リクールは現象学とフランス反省哲学についての研究を出発点とし、一九六〇年代は壮大な「意志の哲学」を構想して、『意志的なものと非意志的なもの』などの著作を出版した。やがて解釈学や言語哲学に強い関心を抱くようになり、解釈やメタファーに関する多数の著作・論文を執筆したほか、一九八〇年代には歴史=物語を主題とした大作『時間と物語』を出版し、「物語的自己同一性」の概念の練り上げを行なった。このあとも、一九九〇年には『他者のような自己自身』、二〇〇〇年には『記憶・歴史・忘却』、二〇〇四年には『承認の行程』といった重要な著作を次々と出版した。また、哲学的探究と平行して、聖書解釈学に関する研究にも情熱を注ぎ、こちらでも多くの成果を残している。
さて、本書はリクールが一九七五年の秋学期にシカゴ大学で行なった講義がもとになっており、それを録音したテープにもとづく原稿と、リクール自身の講義ノートから編集されたものである。英語で出版されたものがオリジナルであるが、その出版は一九八六年であるから、もう四半世紀がたつことになる。タイトルにある「イデオロギー」や「ユートピア」といった言葉じたいが、一定の古さを感じさせることは否めない。まして、「イデオロギーの終焉」が唱えられたことさえもはや遠い過去の出来事となり、「ポスト・イデオロギーの時代」と評されて久しい現代においては、それらの概念はもはや有効性を失った、という評価が一般的なのかもしれない。本書で取り上げられている思想家たちの名前を見ても、マルクスやウェーバー、アルチュセールはまだしも、マンハイムやギアーツ、サン=シモン、フーリエといった思想家たちの名前は、むしろノスタルジーさえ覚えさせるかもしれない。
にもかかわらず訳者としては、本書は、いまなお広く読み直されるべきアクチュアリティを備えている、と主張したい。それは何よりも、テリー・イーグルトンが『イデオロギーとは何か』の冒頭で記しているように、「ここ十年のあいだに世界中のいたるところでイデオロギー運動のめざましい復活をみた」からにほかならない(『イデオロギーとは何か』大橋洋一訳、平凡社、一九九六年)。こうした事態は、「九・一一」以降の世界情勢のことを振り返ってみるならば、イーグルトンの著作が出版された一九九一年当時よりも現代にこそ、いっそう当てはまると言わなければならない。たとえば「原理主義」、「ナショナリズム」、「グローバリゼーション」、「ネオリベラリズム」などのことを思い浮かべてみれば明らかなように、現代社会において、「イデオロギー」と呼ぶことのできる思想・思潮に事欠かないのである。私たち自身が特定のイデオロギーに染まっていないと、誰が自信をもって言えるだろうか。そしてそういう時代であるからこそ、来たるべき未来社会としてのユートピアについて語ることもまた、強く求められているように思われるのである(「強く求められている」というのは、時代の要請と、人々の欲求という二つの意味においてである。たとえば、近年の一連のハリウッド映画の潮流のことを考えてみるならば、近未来の世界を描いた多数の作品が制作され続けていることが、その傍証とはならないだろうか)。
本書でのリクールの議論は、先に名前をあげたマルクスやアルチュセールなど著名な思想家たちの著作を検討するという形をとっている。マンハイムに『イデオロギーとユートピア』という著作があることは広く知られているが、リクールは本書では、(マンハイムのように)これらの概念を練り上げていくことに力点を置くのではなく、従来の思想家たちがこれらの概念を特徴づけるやり方そのものに注目し、その射程を明らかにしようとしている。そこでは「偉大な読み手」と評されるリクールのスタイルが存分に発揮されており、リクールは自らの視点のもとにイデオロギーとユートピアをめぐるそれらの思想家たちの主張を吟味し、そのロジックを浮かび上がらせたうえで、最終的には二つの概念を、想像力およびフィクション構築の働きの重要性という自らの展望のなかに、ポジティヴな仕方で組み込もうとしている。
本書の内容に関しては、社会哲学の分野において日本を代表する思想家であった今村仁司氏の、次のような評価が大いに参考になることだろう。
彼〔リクール〕独自の人間学に基づく解釈学からこれまでのイデオロギーとユートピアに関する諸思想を吟味する手際が見事である。(…)リクールによれば、二つの要素は人間の社会関係の本質的な構成要素であり、いずれも象徴的想像力の機能であるとする。彼の基本テーゼよりも、彼の先行思想家の読みとり方が実に刺激的であった。(「二〇〇五年読者アンケート」『みすず』一・二月号、二〇〇六年)
訳者としては、本書を読み通すことが一つのきっかけとなって、一人でも多くの読者が、現代社会に生きる人間として、「ここにはない何か」に向かって具体的なヴィジョンをもつことの重要さについて再考するようになられることを、強く願う次第である。
また、本書で引用・言及されている多くのテキストのうち、邦訳のあるものについては可能な限りこれを参照し、引用箇所を訳出する際に活用させていただいた。ここに感謝申し上げたい。ただし、リクールが英訳版を使用していることもあり、文脈の都合上、訳者が新たに訳出した箇所もある(その場合も、邦訳の該当箇所を本文中や注に示しておいた)。ご容赦いただきたい。
最後に、本書の翻訳および出版にあたって、その機会を与えてくださった久米博先生と、訳稿の入念なチェックを行なってくださった新曜社の渦岡謙一氏に深く感謝申し上げる。渦岡氏の叱咤激励のおかげで、翻訳の精度と訳文の読みやすさが大幅に改善された。とはいえ当然ながら、それでも残り続けているに違いない読みにくさと誤訳については、ひとえに訳者の責任である。
二〇一一年四月二十日 復興の途上にある仙台にて
川﨑惣一訳者あとがきより
新刊の見本が出来ました
配本日は5月23日です。書店さん店頭には25日以後並びはじめます。
安田節之 著
ワードマップ プログラム評価
──対人・コミュニティ援助の質を高めるために
978-4-7885-1233-7 264頁・定価 本体2400円+税 11.05.23
関連書 安田節之・渡辺直登 著 『プログラム評価研究の方法』
2011年5月10日発行 メール版 第109号
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◎新曜社<新刊の御案内>■メール版 第109号■
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3月11日の東日本大震災におきまして、被害にあわれた皆様に衷心よりお見
舞い申し上げます。
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◇トピックス
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●書評
・「本書は、東京大学出版会や有斐閣など専門書を出版する4社を例に
「知の門衛」としての役割を詳細に分析し、欧米との比較も通して、
「学術コミュニケーションの危機」に切り込んでいる」
佐藤郁哉・芳賀学・山田真茂留 著『本を生みだす力』の書評が
2011年4月24日付朝日新聞に掲載されました。
●フェア情報
弊社が加入しております「心理学書販売研究会」のフェア、
現在、下記特約店にて開催しております。
5月16日以降、各フェアの特典として小冊子、
「心理学を学ぼう!」を頒布予定です。
詳細は心理学書販売研究会ブログへ
・ジュンク堂書店新宿店さま
7階 カウンター左フェア壁棚
開催期間:5月9日から6月30日「精神疾患と心理療法」フェア
・紀伊國屋書店新宿本店さま
5階エレベーター横 フェア壁棚
開催期間:4月11日から5月15日
「先生、こんな心理学書いかがですか? 教育現場にこの一冊」
(16日以降も別テーマで開催)
・八重洲ブックセンター八重洲本店さま
4階上りエスカレーター前フェア台
開催期間:4月13日から6月7日
「コミュニケーション─つながりを科学する100冊─」
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◇近刊情報
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5月中旬発売予定
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『ワードマップ プログラム評価』
──対人・コミュニティ援助の質を高めるために
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安田節之 著
四六判並製264頁・定価2520円(税込)
ISBN 978-4-7885-1233-7 C1011
分野=心理・臨床・教育
◆仕分けの時代の評価法!◆
保健・医療・福祉から教育・心理・産業組織に至るまで、いまやあらゆる領域
で対人・コミュニティ援助の取り組みが実施されています。多くの人が関わる
これらのプログラムでは、具体的な活動内容や実施状況に加え、効果があるこ
とを客観的に検証・報告するアカウンタビリティ(説明責任)が強く求められ
ます。これに応えるべく研究が盛んなのが、プログラムの目的から活動のプロ
セス・結果までを可視化し、体系的に捉える「プログラム評価」です。好評既
刊書『プログラム評価研究の方法』の著者の一人が、評価を始める準備から報
告書まで、さらにコンパクトに全体像をまとめました。たしかな根拠にもとづ
くより良い実践を目指すすべての人にお勧めできる入門書です。
6月上旬発売予定
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『イデオロギーとユートピア』
──社会的想像力をめぐる講義
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ポール・リクール 著
ジョージ・テイラー 編 川崎惣一 訳
A5判上製504頁・定価5880円(税込)
ISBN 978-4-7885-1235-1 C1010
分野=現代思想・社会科学・哲学
◆リクール、マルクスを読む!◆
いずれも浩瀚な『フロイトを読む』『時間と物語』『記憶・歴史・忘却』(小
社刊)などで知られる、現代フランスの哲学者リクール(2005年に死去)
が、社会思想に挑戦しためずらしい書です。講義をもとにしているため、哲学
的な著書にくらべるとだいぶ平易な語り口です。内容は、既に終焉を宣告され
ながらますます影響力を強めるイデオロギーについて、「テキストに暴力をふ
るった」と自ら認めるマルクスへの意想外の読み解きからはじめて、ウェーバ
ー、マンハイム、アルチュセール、ハーバーマス、ギアーツなどの思想にイデ
オロギーの変容をたどり、ユートピア思想と対比しつつ、社会的想像力、社会
的夢のゆくえを探ったものです。かつて今村仁司氏は本書を「彼の基本的テー
ゼよりも、彼の先行思想家の読みとり方が実に刺激的であった」と絶賛されま
したが、「偉大な読み手」リクールの面目躍如たる書といえましょう。
6月上旬発売予定
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『キーワード心理学5 発達』
──
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高橋 晃 著
A5判並製176頁・定価1995円(税込)
ISBN 978-4-7885-1234-4 C1011
分野=発達心理学
◆キーワードで学ぶ発達心理学のエッセンス!◆
基本的な知識と最新の知識をバランス良くおりまぜながら、心理学の各分野を
キーワードで学ぶ「キーワード心理学シリーズ」の第5巻です。「発達」は心
理学でも中心的なテーマで類書もたくさんありますが、本書の特色は、テキス
トにありがちな大勢による分担執筆ではなく、著者が、細部まで気を配りつつ
全体を書いていることです。そのため、記述が一貫していて、心理学の初心者
にも理解できるように書かれています。大学の「発達心理学」授業の参考書と
してだけでなく、保育士試験、教員採用試験などの、学問的に確立された概念
を問う問題が多く出題される試験の勉強の副読本としても役立つでしょう。既
刊のシリーズと並べてご展示ください。
6月上旬発売予定
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『こころの旅』
──発達心理学入門
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山岸明子 著
A5判並製184頁・定価1995円(税込)
ISBN 978-4-7885-1237-5 C1011
分野=発達心理学
本書は大学で教養としての発達心理学を教えてきた長年の経験から生まれま
した。発達心理学の理論や基本的概念、実証研究をあれもこれもと詰め込むの
ではなく、自分が何によってどのように発達してきたのか、まわりの人々が今
どのような発達上の問題をかかえていて、どうかかわったらいいのか、という
読者の関心に添いながら、胎児の時から老人になるまで、心が一生をかけてた
どる旅を発達心理学の視点から描いています。文学や映画(DVD)、漫画に描
かれた具体的な人間の姿をとりあげて、発達心理学の知見が具体的な人生の
文脈のなかで理解できるように工夫されており、楽しく読んで学べるユニーク
なテキストです。
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◇編集後記
ゴールデンウィークに子どもと二人で皇居近くの科学技術館に行ってきました。
休日中唯一のお出かけ。日本有数の大企業各社の後援があることもあり、2階
から5階までみっちり楽しめる展示ブースとなっています。5階のゲノムのブ
ースでは、マンガでゲノムが説明されていて読んでいると、どこかで見たこと
のある絵があると思ったら、作者は山口晃氏でした。ファンの方、必見。
巨大シャボン玉をつくるブース中央に、実験、研究スペースがあり、スタッフ
の方がなにやらパソコンを操作、おそらくはイベントの研究をしているところ
に、なにやら見たことのあるお顔がありました。そう、あの世界でいちばん受
けたい授業、でんじろう先生だったのです!
気づいた子どもたちのフラッシュの嵐にも動ぜず、終始笑顔を絶やさず、スタ
ッフの方とあれこれ議論しておりました。すみません私も思わず、写真を撮っ
てしまいました。デジカメの被写界深度の深さを利用して子どもとのツーショ
ットを何枚も。というか、失礼かなと思いつつやはり撮っちゃうんですね。
でんじろう先生も笑顔だったから許してくれてるよなあ、たんにそういう顔な
だけかも知れないけれど。
科学技術館ホームページ (N)
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◇奥付
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次回発行は2011年6月上旬を予定しております。
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本日11年5月9日付 朝日新聞サンヤツ掲載いたしました。
(大阪、名古屋、西部本社版 5月12日掲載)
掲載書籍は下記の通りです
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