新刊 上田誠二著 『音楽はいかに現代社会をデザインしたか』
上田誠二(かみた せいじ) 著
『音楽はいかに現代社会をデザインしたか』
――――教育と音楽の大衆社会史
6月24日配本で
す。書店さん店頭には2,3日後。
ISBN 978-4-7885-1200-9
A5判408頁・定価 本体4200円+税
現在の日本社会は、新自由主義、市場原理主義、消費社会化、グローバル化、情報化などに彩られた企業中心社会の様相を呈している。このような社会で喚起されている能力主義とは何か、協調主義とは何か、という問題を、そうした秩序意識が確立された一九二〇―五〇年代の文化史から描きたかった。
とくに私は、「エロ・グロ・ナンセンス」と呼ばれた一九三〇年代の世相に注目した。エロチックもグロテスクもナンセンスも現在の社会に色濃くある。加速する性の商品化、頻発する猟奇的な事件、お笑いブームなど、そうした世相がどのような時代性・社会性を反映するものなのか、ひいてはその世相が時代を動かすチカラとはいかなるものかを見究めるために、本書はその端緒といえる一九三〇年代に注目した。
エロ・グロ・ナンセンスな一九三〇年代には、現在につながる矛盾をもつ秩序意識が生成された。そうした「俗悪」とされた文化に強く対抗していた芸術文化と学校文化とが推進した斉唱・合唱実践によって創出された、半強制的な調和という歪んだ協調主義のあり方である。集団の美を実現するために厳しく自己規律化していくという調和美のあり方は、集団(=会社)の利益のために自己規律化していくという、現在の企業中心社会を支える秩序意識のひとつのあり方といえる。
このような半強制的な調和の一方で、芸術家や有識者からエロやナンセンスの象徴として批判され続けたメロディにこそ、実は豊かな可能性があった。すなわち、一九三〇年代において流行歌の作曲家・中山晋平が慈愛溢れる哀調のメロディによってコーディネートした「音頭」が、都市化や産業化、経済不況のなかで失われつつあった社会の共同性を回復するひとつの契機となったのである。そこに宿る社会的連帯の可能性にこそ、現在のわれわれが学び得る社会意識のあり方が窺える。
また、戦中の人的資源確保策のもとでは、絶対音感という能力をもつ「自立」した個人の育成が進められた。そうした個人が飛行機の爆音を聴き分ける防空監視哨員として国防のために「自ら立っていく」という自立のあり方が、失明軍人ではない既存の視覚障害者という社会的弱者にこそ重くのしかかっていった。このような戦中の能力主義が生成した半強制的な自立のあり方は、高度成長期の人的能力の開発路線や、過度な自己責任が叫ばれる現在の世相にも少なからず見受けられる。これもまた、企業中心社会を支える秩序意識のあり方といえる。 (著者あとがきより一部抜粋)
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