書評 小熊英二著『1968』
「UP」2010/3 no449にて書評されました。評者は苅部 直氏。
掲載誌ご担当者さま、書評くださいました先生には心よりお礼申し上げます
「一九六八年について私が知っている二、三の事柄」
・・・・・・
しかし「結論」では、このベ平連の運動もまた、高度資本主義化の新しい工業生産方式に「適合」した「分散化と個別化」の組織形態によるものであり、参加者の意図はともかく、「より高次な資本主義社会へのアンチ」になりえなかった、と指摘してもいる(下巻829-835頁)。これははたしてどうなのか。ゆるやかな組織が同じ時期に、製造業界と社会運動団体との両方に生まれたことに、何らかの共通の原因があるという仮説は、いちおう提起しうるだろう。だが、現代の資本主義をのりこえよと批判するかのような文言を付け加えると、かつての新左翼と同様のリゴリズムを呼びよせてしまうのではないか。
また、社会の大儀に自分を合わせるのではなく、「今」の「私」の願いに率直であれと説いた、ウーマン・リブの主張が、そのまま「大衆消費社会の肯定」につながったとする評価(下巻767頁)にも、同じリゴリズムの気配を感じるのである。「私は 私は わけもわからなく みじめな 私だけに 執着したい」(下巻709頁)という言葉に残されているような「私」の意識は、流行商品を手に入れようとする欲望にのみ、収斂するものではないように思える。・・・・・・
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コメント
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同書評は苅部直先生の初の書評・エッセー集『鏡のなかの薄明』(幻戯書房、3045円)におさめられています。
投稿: shu | 2010年11月16日 (火) 11時53分