書評 小熊英二著『1968』
「・・・・・・高度成長のあと、貧しさや生活苦といった近代的不幸と入れ替わりに、「自分はなぜ生きるのか」を問う《現代的不幸》が現れた。後の不登校や拒食症や自分探しに通じる、その最初の波が1968年だったのでは、という。
この仮説を検証するため、テキストの「ごみ屋敷」(たとえが悪くてごめんなさい)が生まれた。当時書き散らされたビラや日記や落書きの類を、著者は丹念に拾い集める。他人には価値のない紙クズでも、意味があるから捨てられない。それらを分類整理し、言葉にならない言葉を観測する、手製の「カミオカンデ」的「ごみ屋敷」になってしまったのが、本書だと思う。
・・・・・・小熊氏はなるべく主観を交えず、資料に語らせ、当時を客観的に再構成していく。体験の当事者には当たり前でも、忘れていることを、記録に定着させた。記述はおおむね公平で正確である。行間から汗や催涙ガスや、血のにおいまで伝わってくる。当時を知らない読者はもちろん、将来世代の人々にとっても、必読の歴史資料となるに違いない。稀有な才能による、類例のない書物だといえよう」
小熊英二著『1968』の書評が、09年9月6日付 日本経済新聞にて掲載されました。評者は橋爪大三郎氏。掲載紙ご担当者、評者の先生に心からお礼申し上げます。
« 進行状況6 小熊英二著『1968』 | トップページ | 新刊 『ワードマップ認知哲学』 »
「書評」カテゴリの記事
- 書評 井上雅雄 著『戦後日本映画史』@読売新聞 2023年1月8日(2023.01.10)
- 書評 私市保彦著『賢治童話の魔術的地図』@週刊読書人 2022年11月18日付(2022.11.19)
- 書評『東京ヴァナキュラー』@歴史学研究2022年11月号(2022.11.21)
- 書評 ロイック・ヴァカン 著 田中研之輔・倉島哲・石岡丈昇 訳『ボディ&ソウル』日本経済新聞・2022年10月15日付(2022.10.17)
- 書評 大野光明・小杉亮子・松井隆志 編『越境と連帯』@「図書新聞」2022年10月22日付(2022.10.17)
「お知らせ」カテゴリの記事
- 受賞 清水亮著『「予科練」戦友会の社会学』が東京大学而立賞を受賞いたしました(2022.08.25)
- 受賞 山口誠・須永和博・鈴木涼太郎著『観光のレッスン——ツーリズム・リテラシー入門』(2022.08.02)
- 平川祐弘 編『森鷗外事典』の紹介が読売新聞 2019年1月21日付(2020.01.22)
- 掘り出し選書終了(2019.10.23)
- 品田悦一著『万葉集の発明――国民国家と文化装置としての古典』できました(2019.04.23)
「1968」カテゴリの記事
- 青土社 ユリイカ 特集「特集*山下敦弘」 『マイ・バック・ページ』 の 〈青春〉(2011.05.31)
- (毎日新聞社刊) 小熊英二著 『私たちはいまどこにいるのか=小熊英二時評』(2011.03.10)
- 角川財団学芸賞 小熊英二氏『1968』(新曜社刊) 選評(2010.12.20)
- お知らせ 明治学院大学2010年度公開セミナー 小熊英二氏 × 高橋源一郎氏(2010.12.09)
- お知らせ 『1968』 第8回角川財団学芸賞 受賞(2010.10.12)
コメント