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2015年1月29日 (木)

重版 杉浦義典著『アナログ研究の方法』

杉浦義典 著『アナログ研究の方法』の重版が出来ました。


杉浦義典先生が1月7日の「ホンマでっかTV」でラウドネスをベースで弾いたのがきっかけでしょうか、急に客注が殺到、在庫が払底してしまいました。

しかし、本書、かなりの専門書ですので、どう対応したものかと逡巡したのち、重版を決定いたしました。かなりお待たせいたしましたが、本日出来です。

9784788511804杉浦義典 著
アナログ研究の方法
──臨床心理学研究法第4巻
A5判288頁
定価:本体3300円+税
発売日 09.9.15


臨床心理学研究法シリーズ第4巻。

はじめに

 筆者が大学生だった10年少々前と比較しても,臨床心理士養成を看板に掲げる大学院も増えて,大学の臨床心理学のカリキュラムは充実してきている。とはいえ,特に学部の学生はいろいろな焦りを感じているのではないだろうか。早く臨床的な実習をしたい,現場が見てみたい,等々。しかし,臨床実践には責任がともなうため,それほど早く現場に出てもらうわけにもいかないので,少なくとも大学院に入るまでは「おあずけ」である。このように待ち焦がれる学生の姿は,心理学科ではおなじみの光景である。筆者もそうであった。しかし,大学の教壇に立つ今,学部時代を待機期間ではなく,現場に出ていない今だからこそ学ぶべきことを学ぶ,充実した時間にして欲しいと切に願う。学生時代の気持ちを忘れたわけではないし,「立場が違うから」と割り切っているのでもなく,本当にそう思うようになった。人間の心は分からないことだらけである。臨床現場ではなおさらである。その暗闇を進むわずかな道しるべとして,科学的な研究は強力な味方である。現場に出る前に,最低限の羅針盤の使い方と地図の見方を身につけて欲しい。これは,具体的には認知心理学,社会心理学,発達心理学などの知見であったり,実験,調査,統計,面接などの研究手法である。

 本書で取り上げるアナログ研究とは,非臨床群(たとえば健常大学生など)を対象とした臨床心理学研究である。筆者にとって,科学的な基礎が重要だという主張が単なる「正論」ではなく実感になっているのは,卒業論文でアナログ研究に出会ったことが大きい。とりわけ若い学生の場合,臨床現場での研究を行うことは現実問題として難しい。だからといって,臨床的問題について知りたいという気持ちまであきらめる必要はない。筆者自身の卒論では,大学生を対象に強迫観念や抑うつ的な認知を測ってみた。因子分析で分類をしたところ,自分でも驚くほどきれいに分かれた(杉浦・丹野,1998a)。一方,それらの「症状」を予測する変数を見つける作業は困難を極めた。根が生えるほど長時間パソコンの前に座ってデータを解析したが,予測力は最後までいまひとつだった。分からないことを知る喜びと手ごわさを体感した。

 分からないものを少しでも分かるようになる喜びを実感しながらも,しかしまだまだ分からないことが次々に出てくることも実感できる。この過程の魅力にのめり込んだことで,研究は卒業資格を得る手段から自分の生活の中心になり,その後もアナログ研究を続けることになった。心の問題については誰もが一家言をもっている。だからこそ,自分が本当に目前の人のことを分かっているかを,ストイックに問い続ける必要がある。しかし,厳しい道ながらも決して投げ出してはならない。これを理解するための,実行可能な方法がアナログ研究だといえるだろう。臨床を知るためには具体的な生の体験が必要である。たとえ現場経験がなくとも「生の体験」を,手の届く範囲で始める方法がアナログ研究だといえる。臨床を目指す人は,臨床場面以外での人の生活も積極的に考察の対象にするのが望まれる。

 心理学の専門性は科学的なデータに基づいて議論をすることにある。これを「エビデンス・ベイスト(evidence-based)」,「実証的な(empirical)」などと形容する。興味深いことに,empirical は経験的という意味の単語である。しかし,実証主義はいわゆる日常的にいうところの「経験主義」への批判から出発したものである。長年現場経験を積んだ,という事実は重みがある。しかし,それに加えて実験法や調査法によって系統的に多数のデータを得ることを重視するのが実証主義である。アナログ研究であれば,たとえ現場経験が未だであっても,質の高い知を得る経験がいち早くできるのである。

 さらに,健常者を対象とすることからパーソナリティ心理学など他の領域と臨床心理学のつながりが見えやすくなるというのも,アナログ研究のもうひとつの利点といえる。本書で紹介される調査研究の手法や,感情に関する実験のテクニックは,臨床心理学以外を研究する人にとっても有益であろう。

 そのようなアナログ研究を知っていただき,そしてまたぜひ参加していただきたいというのが筆者の願いである。卒論や修士論文など機会はいくらでもあるだろう。やってみて分かる楽しみと手ごわさ。本書がそれに近づく道しるべになれば何よりである。

                                             杉浦義典

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