記事 『戦争が遺したもの』 鶴見俊輔・上野千鶴子・小熊英二 著
鶴見俊輔・上野千鶴子・小熊英二 著
『戦争が遺したもの』
――鶴見俊輔に戦後世代が聞く
四六判404頁・定価2940円
ISBN 4-7885-0887-7
1月7日付東京新聞1面「筆洗」に
1月4日韓国で39年ぶりに無罪が確定した韓国の詩人・金芝河氏と鶴見俊輔氏のエピソードが引用されておりました。
せっかくですので、該当箇所を本文より一部引用いたします。
鶴見 韓国で金芝河が監禁されていた病室まで会いに行ったら、金芝河は驚いた様子だった。なにも知らない日本人が、いきなり現れたんだから。
それで私は、英語でこう言った。「ここに、あなたを死刑にするなという趣旨で、世界中から集めた署名があります」とね。金芝河は日本語はできないし、英語もたいしてできない。だけど彼は、片言の英語でこう言ったんだ。「Your movement can not help me.But I will add my name to it to help your movement」(あなたたちの運動は、私を助けることはできないだろう。しかし私は、あなたたちの運動を助けるために、署名に参加する)。これはすごい男だと思ったよ。朝鮮人とか韓国人jとか、そういうのを超えて、人間としてすごいと思った。もし私だったら、死刑になりそうになっている自分のところへ、署名をもって外国人がいきなり訪ねてきたら、何が言えるだろう。「サンキュー、サンキュー」ぐらいが関の山でしょう。
しかも彼は英語がそんなにできないから、ほんとうにベイシックな英語だけで、これを言ったんだ。まったく無駄のない、独立した言葉なんだ。詩人だと思ったよ。
それで十数年たって、ようやく彼が釈放されて日本に訪ねてきたとき、彼が京都の私の自宅までやって来たんだ。外でちょっと会ってお礼を言うとか、そういうのじゃ気が済まないって言うんだよ。古い儒教的なマナーなのかもしれないけど、そういう仁義もある人なんだ。
そういう人を相手にしていると、抽象的に朝鮮人を差別してはいけないとか、朝鮮人はかわいそうだとかいうのは、まったく超えてしまうよね。そんなことを考えているこっちのほうが、よっぽどかわいそうなんだ(笑)。この人を死刑にしてはいけないという思いが、朝鮮とか韓国とかを超えてしまうんだよ。
・・・・・・(本書336頁-)
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