« 新刊 日本質的心理学会編 『質的心理学研究 第11号』  | トップページ | 新刊 荻野昌弘 著『開発空間の暴力』 »

2012年3月14日 (水)

新刊 P・バーガー、A・ザイデルフェルト 著 森下伸也 訳『懐疑を讃えて』

9784788512795 P・バーガー、A・ザイデルフェルト 著
森下伸也 訳
懐疑を讃えて
――節度の政治学のために

12.03.09
978-4-7885-1279-5
46判216頁・定価 本体2300円+税
の見本が出来ました。配本日は15日です。書店さん店頭には2,3日後となります。

 訳者あとがき

 本書はPeter L. Berger and Anton C. Zijderveld, In Praise of Doubt : How to Have Convictions without Becoming a Fanatic (New York : HarperOne, 2009)の全訳である。書名を直訳すれば『懐疑を讃えて――いかにすれば狂信家となることなく確信をもてるか』とでもなるが、いささか長すぎるサブタイトルを、内容の理解に資するであろう短いフレーズに入れ替え、『懐疑を讃えて――節度の政治学のために』とした。
 「謝辞」にあるように、本書はピーター・バーガーがアントン・ザイデルフェルトを共著者に迎えて書いた本である。二人の人物を紹介しておこう。
 まずはバーガー。社会学を少しでもかじったことのあるひとならだれでも知っている、現存する社会学の最高の巨匠のひとりである。一九二九年にオーストリアのウィーンに生まれ、第二次大戦後まもなくアメリカへ移住、ニュースクール・フォー・ソーシャルリサ―チに学んで社会学者・神学者となった。一九九九年までボストン大学教授をつとめ、現在は同大学名誉教授となっているが、いまでも同大学文化・宗教・国際問題研究所の上級研究員の地位にあり、現役時代と同じ研究室にいるそうである。

 バーガーといえば、何といっても本文中にもあげられているトーマス・ルックマンとの共著The Social Construction of Reality : A Treatise in the Sociology of Knowledge (New York : Anchor Books, 1966)(邦訳は山口節郎訳現実の社会的構成新曜社)が有名で、これによって彼らは社会学にパラダイム革新をもたらしたのであるが、論じるテーマは そうした理論社会学、知識社会学のほか、宗教社会学、近代化論、第三世界論、資本主義論、政治社会学、家族社会学、神学、あるいはユーモア論と、驚くほど 多彩で、著作は膨大な数に達する。そのうち邦訳があるもののみを以下に列挙しておこう。

『社会学への招待』水野節夫・村山研一訳、新思索社(原著一九六三年)
聖なる天蓋――神聖世界の社会学』薗田稔訳、新曜社(原著一九六七年)
『天使のうわさ――現代における神の再発見』荒井俊次訳、ヨルダン社(原著一九六九年)
(B・バーガーとの共著)『バーガー社会学』安江孝司ほか訳、学習研究社(原著一九七二年)
『犠牲のピラミッド――第三世界の現状が問いかけるもの』加茂雄三ほか訳、紀伊國屋書店(原著一九七四年)
(B・バーガー、H・ケルナ―との共著)『故郷喪失者たち――近代化と日常意識』高山真知子ほか訳、新曜社(原著一九七四年)
『異端の時代――現代における宗教の可能性』薗田稔・金井新二訳、新曜社(原著一九七九年)
(H・ケルナ―との共著)『社会学再考――方法としての解釈』森下伸也訳、新曜社(原著一九八一年)
編著『神の知られざる顔――宗教体験の根本構造』岩松浅夫ほか訳、教文館(原著一九八一年)
癒しとしての笑い――ピーター・バーガーのユーモア論』森下伸也訳、新曜社(原著一九九七年)
『現代人はキリスト教を信じられるか――懐疑と信仰のはざまで』森本あんり・篠原和子訳、教文館(原著二〇〇四年)

 かくして本書はバーガーの著作の邦訳としては一三冊目にあたるが、旺盛な著作活動はなお衰えず、ごく最近もAdventures of an Accidental Sociologist : How to Explain the World without Becoming a Bore (New York : Prometheus Books, 2011)という自伝的な作品を刊行したばかりである。
 一方の著者ザイデルフェルトは、一九三七年、当時オランダ領であったインドネシアのナランに生まれ、オランダのユトレヒト大学などで学んで社会学者・哲 学者となった。二〇〇二年までロッテルダム大学教授をつとめ、現在は同大学名誉教授であるが、一方で二〇〇九年までオランダ・キリスト教民主同盟顧問の地 位にあった。こちらも理論社会学、文化社会学の領域を中心に非常にたくさんの著書があるが、邦訳されているのは以下の二点のみである。

『抽象的社会――現代の文化分析』居安正訳、ミネルヴァ書房(原著一九七〇年)
『クリーシェ――意味と機能の相剋』那須寿訳、筑摩書房(原著一九七九年)

 これまた著作活動に意欲的であり、最近もバーガーの『癒しとしての笑い』の向こうを張って『ひとはなぜ笑うのか』というユーモア論を出したところであ る。ちなみに、ロッテルダム大学の正式名称は当地出身のルネッサンスの巨人エラスムスにあやかってエラスムス・ロッテルダム大学で、さきのバーガーの自伝 的著作によれば、『懐疑を讃えて』という本書のタイトルは、エラスムスの代表作『痴愚を讃えて』(邦訳名は『痴愚神礼讃』)にひっかけた「内輪のジョー ク」だそうである。
 本書のなかで二人の著者が取り組んでいるのは、相対主義とファンダメンタリズムという現代世界をむしばむ両極の精神の熱病を根治し、それに代わる希望の 道をしめすという難題である。さすが碩学、彼らは目もくらむばかりの多種多様な素材を用い、ときにユーモアをまじえながら、この難題を説得的に分析し、最 後には王道的な解決策をけれん味なく提案する。読者にはそのあざやかな手際を存分に楽しんでいただきたいが、論旨は大要以下のようである。
 文化の多元化を必然的に促進する近代社会にとって、宗教や道徳を含む世界観と価値体系の相対化は不可避の運命であるが、その結果、人々はたえず実存の危 機にさらされるようになる。相対主義とファンダメンタリズムは、この心理的不安をかき消そうとする両極端の心理的防衛反応である。しかし、投げやりなニヒ リズムを本質とする相対主義も狂信を本質とするファンダメンタリズムも、ともに断固拒否されなければならない。なぜなら、両者ともに理性を麻痺させ、社会 をバラバラに解体するか圧政に導くからである。
 では相対主義とファンダメンタリズムという熱病に対する最強の解熱剤は何か。それが本書のタイトルにもなっている「懐疑」である。理性の最高の働きであ る懐疑の精神をつねにたもち続けることによって、はじめてわれわれはニヒリズムにも狂信にもおちいることなく、真の道徳的確信に近づくことができるのだ。 そのような道徳的確信の基盤は、相対主義がその存在を否定し、ファンダメンタリズムがその存在を詐称する人類の普遍的価値でなければならないが、人間の尊 厳あるいは基本的人権こそ懐疑の余地のない絶対的価値、揺るぎない普遍的価値にほかならない。また懐疑そのものもそうした基本的人権の重要な一部なのだか ら、懐疑の政治的制度化たる立憲民主主義は、逆説的にも懐疑の余地のない普遍的価値をもっているのである。
 以上のことを踏まえながら、著者たちは最後に「節度の政治学」なるものを提唱する。すなわちそれは、あくまでも人間の尊厳と自由という普遍的価値に立脚 しつつ、いつでも懐疑の精神を発揮し、責任倫理的なかまえで個々の現実的な道徳的・政治的問題に対処することによって、価値の共有地を一歩一歩ゆっくり広 げていこうとする政治学である。というと抽象的でわかりにくいが、死刑制度、拷問、妊娠中絶といった具体的問題に対する著者たちの扱い方を読めば、それが いかに冷静沈着で用意周到な、しかしとてもヒューマンな希望の政治学であるかがご理解いただけるものと思う。

 さて、本書の出版にあたっては、新曜社編集部の渦岡謙一さんに大変お世話になった。氏の熱心なサポートがなければ、出版そのものがなかったし、あってもさらに大きく遅れていたであろう。深謝するしだいである。
 また、翻訳に際し、いつも原書のわからないところを教えていただく金城学院大学の鈴木紀之先生には、今回もまた親切にしていただいた。ありがとうございました。
 バーガーの著作の翻訳は私自身三冊目であるが、最初は彼の代表作『現実の社会的構成』を訳された恩師の故山口節郎先生に勧められて『社会学再考』を訳し たのであった。私にとって最初の翻訳の仕事で、先生が手とり足とり懇切丁寧に指導してくださったおかげで、なんとか訳業の完成まで到達できたのである。そ の先生が昨秋、私が本書の校正でもたついているあいだに、まだ七十一歳の若さでお亡くなりになった。本書を先生の御霊前に捧げる。

                                             二〇一二年二月
                                               森下伸也  

|

« 新刊 日本質的心理学会編 『質的心理学研究 第11号』  | トップページ | 新刊 荻野昌弘 著『開発空間の暴力』 »

新刊」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/191157/54219806

この記事へのトラックバック一覧です: 新刊 P・バーガー、A・ザイデルフェルト 著 森下伸也 訳『懐疑を讃えて』:

« 新刊 日本質的心理学会編 『質的心理学研究 第11号』  | トップページ | 新刊 荻野昌弘 著『開発空間の暴力』 »