新刊 陳 天璽・近藤 敦・小森宏美・佐々木てる編著 『越境とアイデンティフィケーション』
陳 天璽・近藤 敦・小森宏美・佐々木てる 著
越境とアイデンティフィケーション
――国籍・パスポート・IDカード
12.03.22
978-4-7885-1275-7
A5判488頁・定価 本体4800円+税
見本が出来ました。26日配本です。書店さん店頭には2,3日後の予定です。
《本書あとがきより抜粋》
・・・・・・共同研究会のメンバーとともに議論を重ね、各々執筆を行ってから、本書がこうして出版されるまで、予想以上に時間がかかってしまったというのが率直な感 想である。編集作業をしている間、二〇一一年三月一一日に未曽有の東日本大震災が発生し、二万人にも及ぶ死傷者と行方不明者を生み出した。人と街を呑み込 む黒い津波の恐ろしさは今も脳裏に焼き付いている。行政やライフラインは麻痺し、多くの人が困惑した。漁港で働いていた外国人労働者(いわゆる「研修 生」)も津波の被害に遭った。留学生や在留外国人たちのなかには海外で心配する親族に説得され一時帰国した者もいる。東京入国管理局には、避難に急ぐ人々 が出国に必要な再入国許可を申請するため長蛇の列ができ、交通整理に多くの人員を要したほどである。一方、もちろん日本に留まった者も多い。有効なパス ポートがない難民や無国籍者たちのなかには避難よりも「救援したい。東北にいく」と炊き出しや瓦礫清掃をしに東北に向かった者もいる。また、放射線被ばく を逃れるため多くの大規模な人びとが移動した。国によっては飛行機をチャーターし、自国民の避難(帰国)援助を行った大使館もある。その救援事業に携わったをした大使館職員によると、震災後、しばら く電話が鳴りやまなかったというそうだ。なかには、「私は○○人です。いまは、帰化をしたので○○国籍ではないが、家族はみな○○にいる。故郷に帰るため 飛行機に乗せてください」と懇願する者もいたそうだ。アイデンティティをとるべきか、アイデンティフィケーションをとるべきか、もしくは、いずれも問わず 救助すべきか、対応に苦渋したという。
非常事態における人の越境とアイデンティフィケーションには、いかなる力学が働くのか、あらためて考えさせられる。
天災で受けたショックもあってか本書の編集作業が頓挫した時期もあるが、むしろ、この天災があったことで、あらためてアイデンティフィケーションの重要 性を再確認させられ、研究成果をしっかり世に問わねばならないと背中をおされた気もする。身分証明が越境する人々の人生とアイデンティティにどのような影 響を与えるのか。生きる上でのさまざまなライフステージ、そして震災など非常事態をも視野に入れ、国立民族学博物館では、新たな共同研究会「人の移動と身 分証明の人類学」が走り始めている。これまでの国籍とパスポートを中心とした研究の蓄積をもとに、さらに研究を掘り下げ、さまざまな身分証明書が生身の人 間を守っていくために果たす役割を検証しようと考えている。・・・・・・
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コメント
冠省 貴社刊行の『越境とアイデンティフィケーション』を神戸華僑歴史博物館の情報誌『通信』に紹介させていただきたいです。紹介は本誌19号(2012年6月刊行予定)の「新著紹介」欄で行い、表紙の画像と書誌データを掲載する簡単なものですが、ご許可いただければ幸いです。なお、『華僑歴史博物館通信』については、下記のサイトでご覧になれます。(http://www16.ocn.ne.jp/~ochm1979/tusinmokuroku.html)
『華僑歴史博物館通信』編集長 蒋海波
投稿: 蒋海波 | 2012年6月 1日 (金) 08時16分