« 広告 11年7月29日付 朝日新聞サンヤツ | トップページ | ◎新曜社<新刊の御案内>■メール版 第112号■ »

2011年8月 1日 (月)

新刊 和田敦彦 著『越境する書物』

9784788512504 和田敦彦 著『越境する書物』、見本できました。
配本日は8月3日。書店さん店頭には2,3日後届きます。
A5判368頁・定価 本体4300円+税
11.08.05
ISBN 978-4-7885-1250-4

斬新な研究として、第5回ゲスナー賞「本の本」部門で銀賞、第29回 日本出版学会賞本賞、第36回日本図書館情報学会賞受賞と高い評価を得た『書物の日米関係』の続編です。

9784788510364

《著者あとがきより》

本書のなかでも書いたことなのだが、読書についての資料を扱い、考えるという作業は、その人がそれまでに身につけ、よって立つ知の基盤そのものを批判的に 見直すよいきっかけとなる。むろん、私自身に対してもそれは同様で、本書を作る作業は、自らが読み、考えてきたその枠組みや土台を改めて問い直す刺激的な 経験でもあった。

高知県の中学校で英語を教えていた私の父は、一九七一年、国際教育交換協議会(CIEE)のプログラムで三ヶ月間米国で学んでいる。以降私の家には特に文 化的な面で、米国という強烈な価値観が流れ込む。米国の対外文化政策が、戦後の私たちの米国に対する考え方、感じ方に深い部分で作用してきた点については 本書でもいくどかとりあげた。私もまた成長して中学、高校に通う頃には、米文学や米国の映画、マンガや音楽にのめり込んでいた。

大学に入って、私は日本文学を専攻し、また、別の外国語に関心をもったことで、そこから距離をとっていった。しかし、それまでに培われた価値観は、欧米文 化圏に対する根拠のない信頼感や崇敬の思いとして、その裏返しの劣等感とともにその後も私の考え方や感じ方の枠組みのうちに残存していったように思う。

そうした思考から自身がある程度脱していくことができたのは比較的最近のことで、実際に米国で長期間調査・研究に従事した経験のおかげだった。私が調査に あたっていたのは二〇〇五年で、米国はその二年前にイラク侵攻を開始し、愚かな戦争のただ中にあった。この年のロンドンの同時多発テロも影響して、地下鉄 の駅構内のような公共の場でも、米兵による一般人への持ち物検査がまかり通っている時期だった。

だがおそらく研究という面で、米国への批判的な距離感がそれなりに身についていったのは、そうした状況もさることながら、やはりその地で読書環境やリテラ シーの調査をしたことによってだと思う。私の調査は米国で日本の書物や日本情報を用いる環境がどのようにできてきたか、という調査だった。それはまた、米 国の研究者たちの得ている日本についての情報や、彼/彼女らの読む書物・思考にも当然のことながら様々な制約やバイアスがあることを実質的にたどっていく 作業でもあったからである。むろんそれは米国における研究者への批判のみならず、自身の研究やその方法においても、絶えず反省・意識化すべきこととして跳 ね返ってくる。それは刺激的でとても楽しい作業であった。

本書はその折の米国での調査や、それ以降いくどかの現地調査、また関係する日本国内の各地での調査をふまえて、ほぼ書き下ろしに近い形でまとめたものであ る。同様の形でまとめた前著から、ほぼ四年の時間がかかってしまった。本書においても前著と同様に、数多くの人々から取材や調査への協力を得た。これらの 情報や資料が、本書の基盤となっている。

本書が完成にまで至ったのは何より私を公私にわたって支えてくれた人々に負うところが大きい。この一年、忙しいなか本当に楽しみながら本書を仕上げていくことができたのは、そのおかげだと思う。

また、昨年から早稲田大学図書館で副館長の仕事をしているが、その経験や図書館スタッフからの示唆・協力は本書の執筆にあたって貴重な支えとなった。そして、前著に続いて出版を快諾し、編集に当たっていただいた新曜社の渦岡謙一氏に心より感謝したい。

さて、本書の原稿を出版社に送って間もない頃、東日本大震災に見舞われた。書架が倒れて研究室には入れなくなり、刊行までの校正作業は図書館で行なった。 本書では、いくどとなく彼方の読書について論じている。自分とは異なる場所・環境の読者と書物について。被災地という場所の読者や書物の問題が、校正作業 をしながらも頭から離れなかった。校正を行ないながら、被災時の大学図書館間における支援活動の実態や方策についての調査プロジェクトを作り、所属する大 学に助成を申請した。大学からの支援の有無は定かではないが、書物と場所をめぐって取り組むべき多くの課題がそこにあるのは明らかだ。私たちの読む環境の 過去と未来につらなる課題は、まだまだ山積している。

付記
本書はほぼ書き下ろしとなるが、部分的に以下の形でこれまで発表している。ただし、本書に組み込むにあたっては全面的に手を入れている。

和田敦彦「プランゲ文庫をめぐるアメリカ図書館の争奪戦」(『インテリジェンス』第一〇号、二〇〇八年)
和田敦彦「流通・所蔵情報をとらえる文学研究へ」(『日本文学』第五七巻一号、二〇〇八年)

本書の調査、およびプロジェクトは、日本学術振興会科学研究費・基盤研究C「米国大学図書館における日本語蔵書史の調査、及びその情報の利用、共有化につ いての研究」(二〇〇六年度~二〇〇九年度)、早稲田大学特定課題研究「米国における日本語蔵書の成立、変化、及び利用形態に関する研究」(二〇一〇年 度)の支援を受けている。

|

« 広告 11年7月29日付 朝日新聞サンヤツ | トップページ | ◎新曜社<新刊の御案内>■メール版 第112号■ »

新刊」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/191157/52362541

この記事へのトラックバック一覧です: 新刊 和田敦彦 著『越境する書物』:

« 広告 11年7月29日付 朝日新聞サンヤツ | トップページ | ◎新曜社<新刊の御案内>■メール版 第112号■ »