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2011年7月15日 (金)

新刊 マイケル・ビリッグ 著 鈴木聡志 訳『笑いと嘲り』

9784788512405 新刊 マイケル・ビリッグ 著 鈴木聡志 訳
『笑いと嘲り』――ユーモアのダークサイド
11.7.5
978-4-7885-1240-5
46判496頁・定価 本体4300円+税
の見本出来ました。配本日は7月6日、書店さん店頭へは2,3日後です。

Laughter and Ridicule:Towards a Social Critique of Humour(Sage, 2005)の全訳


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さて、本書では表立ってレトリカル・アプローチを採用していると表明していないが、笑いをレトリカルなものとして捉え、笑いの内的な原因よりも対人的な機能に注目する点で、従来からの一貫した立場に立っている。また、笑いが期待されている時に笑わないこと(笑ワズ)も笑いと同じくらい意味がある、子どもは最初大人から嘲笑され、そしてある時期に嘲笑することを学ぶ、といった指摘は、笑いをレトリカルなものと仮定することから生まれた洞察と言えるだろう。先に訳者はレトリカル・アプローチに批判めいたことを言ったが、このような多彩な洞察を生み出す力には目を見張るものがあると思っている。

 二つ目は批判心理学である。批判心理学とは大まかに言うなら、現在の主流の心理学に対する批判的な諸勢力の総称である。現在の主流の心理学が人間を一種の情報処理機械と見なし、実験室における実験結果を実験室外にも一般化しようとしているなら、批判心理学は人間の文化・社会的側面を強調し、日常生活における人間行動をそのままデータとして扱おうとする。そのため概して量的研究よりも質的研究、実験室研究よりもインタビューやフィールドワークを重視することになる。また、心理学に知らぬ間に入り込んでいる社会の常識的な考え方や価値観にも自覚的であろうとする。

 ビリッグの諸研究は多かれ少なかれ批判心理学的であり、彼自身が影響力のある批判心理学者の一人に数えられている。そして彼の著作の中でも、本書はかなり批判心理学的な色彩の強いものである。彼自身が本書の中で述べているように、本書執筆の動機はユーモアを無批判に良いものとするポジティブ・イデオロギーを批判することである。そしてこのイデオロギーが知らず知らずのうちに入り込んでいるポジティブ心理学にも、彼は疑いの眼差しを向ける。

 彼の批判心理学のユニークな点は、心理学的概念を歴史的に捉えようとするところである。本書では全体の約半分を使って笑いの理論の歴史を概観し、そうすることで嘲りがどのように扱われてきたのかを探っている。このアプローチは次作に当たる The Hidden Roots of Critical Psychology で批判心理学自体に向けられ、シャフツベリー、トーマス・リードの著作に批判心理学のルーツを探ろうとする。なんと彼は、批判心理学にも批判的なのである。

 訳者が本書の翻訳を思い立った理由の一つは、わが国において批判心理学の書物がほとんどないため、その良い手引きになると考えたためである。もちろん本書は批判心理学を概説するものではない。しかし、アカデミックな研究動向にイデオロギーを読み取る姿勢や、心理学的概念を普遍的・固定的なものではなく、歴史的・流動的なものとして捉えることなど、批判心理学的研究の具体例になっている。アカデミックな心理学者が本書を読んで、心理学をこれまでとは違った角度から眺めるようになったら、訳者にとって望外の喜びである。

 もう一つの理由は、意外に思われるかもしれないが、いじめについての議論の深化のためである。何らかの対策をすればいじめは根絶できるという主張を聞くたびに訳者は、そうした主張は人間性に関する理解が浅いのではないかという疑惑を感じずにはいられなかった。本書によれば、子どもは成長のどこかで人を嘲笑したりからかったりすることを学ばねばならない。そうすることで大人社会の一員になる練習をする。もしそれが事実なら、子どもはいつか、からかいや冷やかしを、仲間に向けることも仲間から向けられることも経験しなければならない。一方で、からかいはその言葉の軽さとは裏腹に、それを受けた者には過酷であることも指摘されている。本書がいじめ対策のために直接役に立つとは思わないが、いじめについて理解を深める助けになることを期待したい。
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(訳者解説より一部引用

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